<Presented by lucia 50000HIT SS>


只今、満員御礼?!


降って湧いた、この事態。

果たして、吉と出るか、凶と出るか―。



「お腹のお子さんはお一人じゃないようですよ、ストライフさん」

「……え?」

女医に告げられた言葉を瞬時に飲み込めず、そのときのクラウドの顔は誰が見ても呆けているとしか言えないものだった。

診察室のベッドに横たわるティファも、女医が指し示す超音波映像を真剣な眼差しで見つめている。

「ほら、ここ……見えるでしょう?奥さんは三つ子を妊娠しておられますね」

「みつ………」

ティファの手を握りしめるクラウドの無骨な指に、本人も知らぬ間に力が入っていたらしい。

「く、クラウド、痛いよ……」

「え?…あ、悪い、……」

急に落ち着かなくなったクラウドを見て医者とティファは顔を見合わせてくすくすと笑った。


情けないのを十分に自覚しながら、それでもクラウドは思う。

笑うなよ。

仕方ないだろう?

アインも3つになって、そろそろ次が欲しいと密かに考えていた矢先の妊娠だったんだ。

彼女にもそんな俺の本心に気付いて貰いたいと、努力もした。

強いて例を挙げるなら、基礎体温計をプレゼントしてみたり。

勿論、基礎体温がどうの、なんて言う知識は最初から俺が持っていたはずがない。

たまたま配達先だった薬局の商品棚に、やけに目立つラベルが貼られていたんだ。


【子作り計画のお供に!女性の体調管理にも必須のアイテムです♪】


極太マジックで書かれたソレがどうやっても頭から離れなかった俺は、店主に荷物を渡してサインを受け取った後、また戻って基礎体温計なるものを手にした。

生まれて初めて手にするその機械の入ったパッケージを持ってレジに並ぶ俺は、ゴーグルを装着してはいたが火を噴いたように顔が上気していた。

ここがエッジから海を隔てた、知り合いのいない街で良かったと心の底から思っていたのも本音だ。

その夜、妙に緊張しながらソレを彼女に手渡すと、普段しっかりしている彼女もそういうことには無頓着だったらしい。

「結婚した当初はね、体温をちゃんと管理して、なるべく計画的に、効率的に赤ちゃんを授かりたいなあ、なんて思ってたの。だけど、そんなことする前に

アインを妊娠しちゃって。そのとき思ったのよ。計画を立てて赤ちゃんを授かるよりも、自然の成り行きで思わぬときに出来ちゃう方が、誕生日でもないときに

贈り物を貰うみたいで嬉しいかなって。」

にっこり笑ってそんなことを言う彼女は、明らかに体温測定を拒んでいた。

自然の成り行きもいいかも知れないが、少しでも早くアインの弟か妹をこの腕に抱きたいと願う俺にとっては、是非計画もしておきたいところだった。

だが、天使の微笑で薬局の袋ごとソレを押し返された俺は、どうすることもできず。

男の俺がこれを後生大事に持っていてどうするんだ、と思わなくもなかったが、万に一つ彼女の気が変わることもあるかと期待して、ずっと寝室の引き出しの

奥にしまい込んでいた。

だから。

彼女がその数日後に悪阻らしき症状を見せ始めたとき、俺は彼女が常に正しいことを思い知らされ、計画なんぞクソ食らえ、こんなサプライズがあるなら

人生捨てたもんじゃない……そこまで歓喜したのも事実。

そして今。

彼女の腹には三人の赤ん坊がいると聞かされた。

喜び3倍、幸せ3倍。

いっそのこと掛け合わせて9倍だと大声で言い触らしたくなるくらい、俺の思考回路はパンクしてしまったんだ。


クラウドが一人、頭の中でぐるぐると自己を正当化していると、診察室のドアが勢い良く開け放たれ、背後から娘の声が響いた。

「パパ!」

「アイン、駄目だろ、病院で騒いだら」

クラウドの手を掴んでぶんぶんと揺さぶり、鳶色の瞳がきらきらと輝く。

「あのね!あかちゃんがいーっぱいだよ?」

「…うん?」

「だからー、あかちゃん!たっくさんいるんだよ?」

診察結果を知っているのはここにいるクラウドとティファと医者の三人だけのはず。

怪訝に思って女医を振り返ると、やはり“何も言ってない”と言いたげに肩を竦める。

なにやら興奮しているらしい娘の頭をそっと撫で下ろしながら、クラウドは努めて優しい口調で語り掛けた。

「アイン。今度の誕生日にお前が欲しいと言っていた、赤ちゃんだが……どうやら本当にお前にプレゼントできそうだ」

当然大喜びすると思っていた娘は、きょとんと首を傾げる。

「だって、あかちゃん、もういるよ?」

「もういるって……いや、あのな。ママのお腹にいるってだけで、生まれてくるのはまだずっと先だから、待ってよう。な?」

「ママのおなか?……へんなの、パパ」

「……変?」

話が噛み合わないことに加え、可愛い娘に「変」だと言われてしまったクラウドは軽く傷つき、口が半開きのまま黙り込んでしまった。

そんな父親に痺れを切らした様子の娘は、頬をぷんと膨らませて睨んだ後、大きく口を開けて息を吸い込んだ。


「おーきーてー!!!」



突如耳に飛び込んだ愛娘の声に、クラウドはがばっと身を起こした。

「……!」

自分の腹に跨り、小さな手でぺちぺちと厚い剥き出しの胸板を叩く娘と視線がかち合う。

というより、起き上がった勢いで危うく娘の額に己のそれをぶつけるところだった。

「あ…アイン?何して……」

「もう!やっとおきた!」

ふと見ると、娘の向こうにもう一人、腰に両手を当ててこちらを見据えている存在が。

「マリン、……赤ん坊はもう生まれたのか?三人とも無事か?母体は?!」

「………はぁ?」

「………はぁって…」

「………どんな夢、見てたのかな、ほんと」


さぞかし幸せな夢だったみたいだね、と嘆息がてら呟くマリンをぼんやり見つめながら、クラウドは自分が置かれている状況を徐々に理解し始めていた。

俄かには信じ難い、ほろ苦ビターチョコレート味の現実だった。

……嘘だ。

夢だなんて嘘に決まって……!!

隣にいるはずのティファを縋るように見遣ったクラウドが目にしたものは。

やはり、辛すぎる光景だった。

そこには、いつもながら無駄のない、引き締まった身体の線がシーツの上からでもありありと見て取れた。

かと言って痩せていると言うのでもなく、欲しいところにはしっかりと付いている脂肪。

女性らしい丸みを帯びた彼女の身体は、クラウドが他の誰の目にも晒すまいと懸命になるのも頷ける魅力が溢れていた。

が。

そんな美しさも、今のクラウドにとっては有無を言わさず夢をばっさり切り捨てる無常な剣となっていた。

仰向けの彼女の腹は、とても三人の赤ん坊が入ってるとは思えないぺったんこな状態で。

いや、思えないというより、実際一人だって入ってはいないのである。

彼女の腹部に無遠慮な視線を留めたまま、酷い眩暈を感じてクラウドは目を閉じた。


一体、どこからどこまでが夢だったんだ……?

ひょっとして、目立たずともあの中に一人くらい……。

往生際の悪さは自慢できたものではないが、そんなことを構ってはいられない。

「クラウド、幸せ気分を壊しちゃって悪いんだけど」

のろのろと顔を上げ、もう一度マリンの顔を見た。

「どうした……?」

「ティファじゃないのは残念かも知れないけど、クラウドの欲しがってる“赤ん坊”、あっちにたくさんいるの」

「……どういう意味だ?」

「来てみれば分かるから。ティファも起こして、一緒に来て。……あ、ちゃんとシャツ着て来てね!」

そう言い残し、アインを連れて寝室を出て行くマリンを見送ったクラウドは、ベッドサイドの時計がまだ5時前を指していることに溜息を吐く。

マリンの言葉の意味はさっぱり理解できなかったが、とりあえず行くべきだろう。

娘が二人がかりで起こしに来たぐらいなのだから。

床に落ちていたシャツを拾い上げ、隣のティファを起こす前に、こっそりと壁際の引き出しを開けてみる。

奥の方に、見慣れた薬局の袋が鎮座していることを確認し、一人密かに納得する。

……ティファの三つ子妊娠以外は、全部現実だな。

何故かそんなことに安堵し、気持ちを奮い立たせるクラウドであった。




現実は、ほろ苦いどころの話ではなかった。

思わずクラウドは頭を抱え込む。

「太ったのかと思ってたけどさ、ジュエルもいつの間にか母さんになってたんだな?俺尊敬するよ、ジュエルのこと」

そう。

目の前には、きゅーきゅーと鳴く小さな“犬の”赤ん坊が、数えるのも面倒になるほどたくさん転がっていた。

正確には、母であるジュエルがペットサークルの中で舌を出して横たわり、その腹に子犬が群がって乳を飲んでいるのだ。

「八匹も産んじゃうなんて、ジュエル偉いね〜、頑張ったね〜」

子供たちに負けず劣らず大喜びしているティファが、サークルに額をくっつける勢いで産まれたての命を見つめていた。

「……こいつが子供産むとは欠片も想像してなかったな。言われてみればジュエルもメスだったんだよな。忘れてた」

背後で腕組みしながらぼそっと感想を漏らすクラウドに、家族の責めるような視線が一斉に突き刺さる。

「……失言、か」

「それは頑張ったジュエルに失礼だよ、クラウド?」

出産の経験をジュエルと分かち合うティファに窘められ、クラウドは怒られた犬のように首を竦めた。

「……悪い。けど、こいつの顔ってどうみても、三枚目のオスって感じだろ?そう、例えて言うなら、ジョニーだな。……ジョニーはどう見たって子供なんか産まない

だろ?それと同じだ」

「クラウド?!」

今度はマリンがぎろりと睨み付けた。

「ジュエルはクラウドが連れて来た子なのに、ほんと冷たいんだから。…ねぇ、ジュエル?」

ティファに冷たいと言われてクラウドは少なからず落ち込んだ。

……だって、現実問題として、この事態をどうするんだ、ティファ?

八匹だぞ?

誰かに譲るって言ったって、そう簡単に貰い手が見つかるかどうか……。

「とりあえず、ユフィやシドたち全員に声を掛けてみるか。近所にも、…ああ、店の客に呼び掛けるのも有効かも知れないな」

「声掛けるって、何を?」

「何をって、勿論、里親探し」

「産まれたばかりでそんなこと……!ほんっと、クラウドがそんな冷たいとは思わなかった」

本気でむっとしているらしいティファの姿に、クラウドは口を噤まざるを得なかった。

どうやら、彼の本心を理解している者など、そこには誰一人いないようだった……。



その夜。

クラウドは寝室のベッドに座り、溜息ばかり吐いて過ごしていた。

今日は朝から晩まで子犬の話題で持ち切りだった。

まあ、クラウドにだって情はあるのだから、ジュエルが早朝に人知れず懸命に産み落とした子犬たちが可愛くないはずはない。

だが、彼には子犬の誕生によって新たな心配事が持ち上がっていたのだ。

それは    。

「クラウド……?どうかした?」

不意に声を掛けられて顔を上げると、シャワーを浴びてきたらしいティファがベッドに片膝をついてこちらの表情を窺っていた。

「いや……別に」

「別にって顔じゃないよ……?具合でも悪いの?」

さらに身を乗り出してきた彼女の額がクラウドのそれにぴとっ、と密着した。


少しでも身体を動かせば触れそうな唇の近さに、クラウドの心臓は容赦なく鷲掴みにされる。

普段なら間髪置かずに押し倒しているはずの彼だったが、薄手のコットンワンピースを頭から被っただけの無防備なティファに、今夜は手を出せずにいた。

彼女が昼間口にした言葉が、今でも彼の頭を占領している。

<当分の間はジュエルの子たちに手が掛かりっきりになりそうだし、クラウドのお世話も今まで通りにはいかないけど、我慢してね?>

彼が愛する向日葵のような笑顔で軽く言い放たれたら、何も言い返すことなどできなかった。

きっと、彼女は俺と同じようには考えていないのかも知れない    。


坂道を転がり落ちる勢いで膨らむマイナス思考を自覚しながらもどうすることもできず、クラウドは自分から額を離し、顔を背けた。

途端に感じる、ティファの戸惑ったような視線。

「…ごめん。先に寝るから、……おやすみ」

「クラウド……?」

背を向けて横になり、無理矢理目を閉じた。

まだ寝るにはいささか時間が早かった。

眠れるだろうか。

……無理だな。

背後に感じる、沈鬱な空気。

彼女を困らせるつもりはなかったけれど、実際彼女は無言のまま動こうとしない。

……これじゃ、まるで家を出る前の俺みたいだ。

やめた。こんな態度じゃ、拗ねてるだけの子供じゃないか。

ゆっくりと身体を起こして振り返ると、彼女はベッドの上にぺたりと正座をし、心細げな瞳でこちらを見つめていた。

「ティファ……?」

「……ジュエルの子たちのこと、そんなに嫌い……?」

「……え?」

そういうことじゃなくって……

「……あのね、クラウドがどうしても嫌だって言うなら、八匹ともできるだけ早く貰い手見つけるようにするから。だから、…怒らないで欲しいの」

いや、あの、怒ってる訳じゃなく……

クラウドは一方的な彼女の言葉に暫し何も言えずにいたが、犬好きの彼女がそんな素直な誤解をするのは仕方ないのかも知れなかった。

己の悩みが一欠片も伝わっていないことに、クラウドは少しばかり苛立ちを覚える。


「……俺さ。今朝、妙にリアルな夢を見たんだ」

抱き締めた腕の中で、彼女が僅かに身じろいだ。

「…夢?どんな?」

「ティファが、その……三つ子を身ごもる夢」

「三つ子って……凄い、ジュエルみたいね」

くすりと笑う彼女を更に力を込めて抱き竦める。

「……嬉しかったんだ。医者に超音波の画像を見せられて、……夢見心地だった。本当に夢だと分かったときは頭を思い切り殴られたようなショックだった」

「……クラウド」

「ティファが俺ほどには子供に執着してないのは分かってる。……無理強いだけはしたくない。実際に腹に子供を抱えて10ヶ月過ごすのはティファなんだし、

俺はただ傍で見ているだけで役に立つ訳じゃない」

「そんなこと……」

それだけじゃない、とクラウドは続ける。

「最近は子供に恵まれないカップルが、ペットを飼って子供の代わりに可愛がるって例が多いらしいから……ティファも子犬ですっかり満足して、

俺との子供に興味を失うんじゃないかって、……そう、思った」

「そんなはず……!」

クラウドの拘束を無理矢理逃れたティファが、真正面から見据えてきた。

「私がクラウドとの子供に興味を失うって思われていたなんて、凄く心外だし、……悲しいよ」

違うのか……?

確かめたい気持ちはあったが口にはできなかった。

今にも泣き出しそうな顔をしているティファに、謝ることしか思いつかない。

「……ごめん」

「私の方はクラウドとは全然違う心配を抱えてたんだから」

「……?」

「……アインを可愛がりすぎてて、次の子が生まれてもクラウドが興味示さなかったら可哀想だなって。……ましてや、男の子だったりしたらクラウド、可愛がって

くれるか自信なかったし」


なんて見当違いなことを心配しているのか。

彼女は忘れたと言うのか?

結婚前に告げた俺の正直な気持ちを。

クラウドは遥か彼方の記憶を手繰り寄せ、彼女の耳元へ囁いた。

「ティファ似の子供が両手に余るほど欲しい……俺がそう言ったの、忘れたのか?」

「りょ……両手って!」

以前口にした台詞を更に誇張した表現に、ティファの頬はあの頃よりも紅く色づいた。


「……じゃあ、期待していいんだよな?」

「うん?」

「子作り」

「ばっ……!」

馬鹿!と続くことを想定していたのだが、ティファは意外にも恥ずかしそうな笑顔になった。

「本当のこと言うとね……ジュエルのたくさんの赤ちゃんを見ていたら、私もそろそろ欲しいかな、……なんてちょっとだけ思ってたところ」


降って湧いた、ジュエルの出産という寝耳に水の事態。

しかしどうやら、吉と出たようである。


「それにはやっぱり、計画性が欠かせないな」

「計画性?」

「だってそうだろ?今まで無計画にひたすら毎日繰り返してきた結果が、アイン一人だけだった」

意味を察したらしい彼女が目を見開いた。

「ってことは、しっかり計画を立てて、“その何日か”の間は俺が特に気合を入れる必要があると思うだろ?」

「…………」

思うよな?と確認を求めるクラウドに、ティファは観念したように手を差し出した。

「……こんなときばっかり饒舌になるクラウドにも心の底から呆れちゃうけど、……まだ、あるんでしょ?体温計」

ああ、勿論、と勝利の笑みを返し、クラウドは引き出しの奥から薬局の袋をがさがさと取り出した。

その場で袋を破り捨て、ようやく日の目を見たソレをひっくり返したりして物珍しげに眺めた後、口にくわえる部分を彼女の唇に押し当てた。

「ほら、口開けて」

「えっ……ちょっと、今じゃないってば!」

「…ん?」

「朝起きるときに計るの!……せっかちなんだから、もう……」

そうなのか?と首を傾げるクラウドに愛しげな眼差しを向けながら、ティファは体温計を受け取ってベッドサイドに置いた。




それから毎朝、クラウドはティファよりも一足先に起きて体温計をスタンバイするようになったらしい。

朝に強すぎるティファがうっかり測り忘れて飛び起きてしまわないように、と配慮してのことだった。


次に巡ってくる“その数日間”を常に待ち望んでいることは未だ誰にも言わず、あくまでもクール路線を突き進もうと足掻き続けるクラウドであった。




FIN


るしあさん宅(scrap edge)の5万打HIT記念SSを奪ってきちゃいましたー!!
るしあさーん、50000HITおめでとうございますv今後もより一層のご発展、お祈り申し上げます♪

うふうふ。クラウドったらvヘンな所で用意周到なんだから…vv愛…!
ホント、もう何人でも作ったらいいよ!ねーv幸せvv
次に巡ってくる「その数日間」の彼の「気合」。柊にも見せて(そらきた)

『ほら、口開けて』

どへーーーーっっ!!!(転がる)
毎朝スタンバイですよ!寝起きのテハ子はぼんやり可愛いぞ!

天然ヘタレクラウド、愛しいですv

るしあさん、ありがとうございました〜vv


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