<SS Vexation>
それは全てのものが息を密めるような月の無い夜。
カーテンの隙間から差し込む僅かな星明りの中、
隣で安らかな寝息を立てる女性を、
ただじっと見詰める 蒼瞳。
Vexation
「いらっしゃいませー!」
ミッドガルから東に伸びる通り沿いに出来た街エッジにあるダイナー、セブンスヘブン。
大通りから少し離れた場所に位置するその店は、常連はもとより人伝いに噂を聞き寄せて初めて来店する客も少なくは無い。
たった今元気な声を発した看板娘であるマリンのにこやかな笑顔は微笑ましく、日々に少々疲れた大人の心を癒すに事足りるもの。
そしてなんと言っても噂を頼りに来店する客の一番のお目当ては女だてらに酒場を切り盛りする主、ティファ=ロックハート嬢であろう。
彼女の笑顔は全ての男性陣を一度で魅了し、そのしなやかでありながらメリハリの利いたボディラインは魅了どころか一網打尽にしてしまう。
それでいて出される手料理は美味この上なく、華やかなその微笑と共に提供される酒がこれまた美味いとなれば繁盛しない訳が無い。
お陰様で本日もセブンスヘブンは大盛況である。
賑やかな話し声や笑い声の中、ティファはカウンターの中で注文の酒を作りながらひっそりとため息を吐いた。
ちらりと横目に目を遣るのはカウンター席の一番奥、いつもの場所で静かに酒を啜っている青年、クラウド=ストライフ。
彼がその視線に気付き、ふと目が合ったが曖昧な微笑を浮かべるとすぐに逸らされてしまった。
最近の彼はどうも様子がおかしい。
何か考え事をしているようで、かと言って聞き出そうとしても今のようにはぐらかされてしまうのだ。
「ティファちゃーん、こっちの酒まだー?」
「はーい、ただいまー」
以前の彼は酒に酔った客が馴れ馴れしく自分の名前を呼ぼうものなら地を徘徊するモンスターでさえ両手をついてゴメンナサイをする様な
鋭い眼光でクシ刺しにしていたものだと常連の客が苦笑しながら零したことがある。
しかして今、その不思議な色彩の碧眼は少々翳りを伴いその手に持ったグラスに落とされたまま微動だにしない。
客商売である故、それは喜ばしい変化ではある。
それを知ってから毎度毎度、こっぴどく説教を施した成果であるならば、それは良い事なのではないだろうか。
(ヤキモチ…っていうの?)
心の中で言葉にしてみてからティファは一人で頬を赤らめた。
ちょっとは嬉しいんだけどね。そんな言葉で勢いをつけつつ、他の料理を運んでいるマリンに代わって出来上がった注文の品を手にカウンターから出た。
「おお、きたきた」
「お待たせしてすみません…はい、こっちがお湯割りでこれがダブル」
空いたグラスを回収しようとしてのばした右手を初めて見る顔の男がおもむろに掴んだ。
「ティファちゃんて言うんだ。綺麗な手だなぁ。。お近づきに握しゅ…」
瞬間、後方から凄まじい速度で弾き飛ばされてきた一粒のナッツが、一線を退いたとはいえその戦闘能力は計り知れないティファの動体視力により察知され
見事に叩き落とされた。
飛んできた角度から鑑みるにどうやら狙いは手を握ってきた男の眉間辺りだろう。
目の前に座っていた客はひっ、と甲高い声を一瞬漏らしたが、後方ではちっ、と口惜しげな舌打ちが微かに響いた。
ティファが小さくため息を吐いて振り返ると、後ろも見ずに第二弾を小脇の隙間から用意していたらしいクラウドの手がぴたりと止まる。
撤収は余儀なくされたようだ。
無残に跡形も無く粉々に床へと散ったミディール産のそれはすかさず駆けつけたデンゼルの携えた箒と塵取りによりきれいに片付けられていた。
見事な家族の連係プレイだ。(そうかな)
「く、クラウドさん居たんだ」
客の間から微かなざわめきが起こる。
そう、存在自体が危ぶまれるほど彼は影が薄かったのだ。
再度ティファに手を伸ばそうとしていた事情を知らない先程の男は周りの常連客に口々に制止を勧められ、羽交い絞めにされていた。
ティファはデンゼルの頭をありがとう、と撫でると回収したグラスを手にカウンター内へと戻る。
やはりおかしい。
少し前にはグラスを渡そうとしてほんの少しだけ手が触れただけの客の喉元に向けて馬鹿みたいにでかい剣をフル装備で即座に突きつけた男だ。
おかしい。
おかしいが、良いことではある。
訳のわからない感情に居心地の悪さを感じるティファは長い指で不発に終わったナッツを転がす彼を見詰めた。
相変わらずクラウドは俯き加減にティファとは目を合わそうとしない。
まるでいじけた子供のようである。
ふう、とまたひとつ息を吐くしかないティファであった。
「ねぇ、クラウド」
最後の客を見送ってから数分して、子供たちを寝かしつけ終えたクラウドが階段を下りてきたので
ティファは毎度ながら彼のその僅かな変化について問いただそうと試みた。
「何かあったの…?私じゃ、役に立てない?」
相変わらずの無味な返事に何だか涙が滲んできた。
これだけ一緒に居て、―あれ以来、心も…身体すら(かなり)通い合わせたはずの相手に相談もされないとはなんと情けないことか。
「…違うんだ、ティファ」
悲しげな瞳に微かに動揺を見せたクラウドが言葉を発した。
「…じゃあ、話して。何でも受け入れる覚悟は出来てるから」
一転して凛とした目を向けるティファにクラウドはまた少し言い淀む。
そのバツの悪そうな、神妙な表情はどこかで見たことがある、と思った。
そう考えるとこれまでの彼の一連の行動は全て見覚えがあるようにも感じる。
「…ティファは…夜が好きか?」
記憶を辿っていたティファは黙り込んでいたクラウドが突然言い放った言葉を最初は意味が掴めずにぼんやりと聞いていた。
「夜…?」
「待ち遠しいか…?」
なんとなく頬が熱くなってきて、ティファはクラウドから視線を外した。何を言い出すんだろう、この人は。
真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、俯いたまま黙っていると
「…ああ、…そういう意味で言った訳じゃないんだけどな」
無言は肯定だと教えられたのは、そういえば彼にだった。
そう気が付いて慌てて顔を上げると、いつもの優しい笑みを浮かべたクラウドのゆらゆらと煌めく魔晄色の瞳に魅入られる。
「あ、ち、…違」
言い訳染みた言葉は彼の整った薄い唇に封じ込められた。
「ん…」
優しい口付けはその割りに長く、内容が濃すぎて眩暈を覚える。
開放された時にはその胸に身体を預けなければ立っていることが出来ないほどだった。
「ティファが可愛いから…もういい」
ひょいと抱き上げられた身体に抵抗する力は残っていない。
もういい…自分が聞き出そうとしているのに、なんだろうこの展開は。
またはぐらかされるのだろうか。
二階へと上がる階段の途中でティファはクラウドのシャープな顎の線を見詰めながらぼんやりとした思考でもう一度言葉を紡いだ。
「じゃあ、…どんな意味で聞いたの?」
クラウドはまた少しいじけたような表情を見せ、ぷいとそっぽを向いた。
「………」
ああ、思い出した。
この顔は、あの頃の…。
ティファは自分たちの幼少期に想いを馳せた。
友人たちと遊ぶ自分を遠くから怒ったような顔で見詰めていたクラウド。
彼はそれを嫉妬だったと話してくれたことがある。
…と言う事は、やはりクラウドは今何かに嫉妬しているのだろうか。
一体何に…?
「…ティファは、俺のことが好きだよな」
また突然の図々しい言葉にやはり黙り込んでしまい、はたと気付く。
くくく、と喉を震わせるクラウドの肩に諦めの息を吐きながら頭を凭せ掛けた。
「…だからいいんだ」
結局、判らず終いみたい。
でも彼の身体から伝わる優しい熱は…真実だと思えるから。
もう、いいわ。
闇に慣れた碧色の瞳が隣で安らかな寝息を立てるティファをじっと見詰める。
ん〜〜、と小さく寝返りをうつ彼女が口元を綻ばせた。
「…んもう、…クラウドったら…」
「…くそっ」
悪態を吐いたクラウドは何の報復行動にも出られない己をこの後も毎晩呪ったという。
最強の彼の敵は最強であること間違い無し。
FIN
敵は己の中に…いや、彼女の中に有り。
対峙は不可能です。
イライラですね(笑)
10000HIT有難うございますw
そして見事にキリ番踏んでくださったDSさん、ありがとうございましたーー!!w愛…。。
リクエスト内容は
「今までにない位のやきもちクラウド。最後はいつもの調子で!」
と言うことでしたが…
あら?
やきもち…妬いてますよね…??(最近こればっかりよ柊)
なんだかこれでいいかどうかは判りかねますが…DSさん!貰ってやってくださいな☆