<SS Oath>
Oath
重くのしかかるような分厚い雲をまとった空が、ひとつ、またひとつと冷たい雫を落とし始めてからほんの数分。
あっという間にその勢いを増した雨は、これでもかとばかりについ今しがたまで人で賑わっていた通りを叩きつづけている。
間一髪でカームの街に滑り込んだクラウドは雨宿りに入った宿屋の軒下で時おり強い風にしぶく雨音を目を閉じたままじっと聞いていた。
雨は、嫌いだ。
重く、暗いイメージが閉じた瞼の裏で燻りはじめたのに気づいた彼はゆっくりと目を開けた。
店先の壁に寄りかかり、腕組みしたまま時刻からすればかなり暗い雨空を見上げる。
濃い灰色の空はどうやらあきらめてはくれないようだった。
「今夜は荒れそうだよ。どうする?寄ってくかい?」
馴染みの宿の店主が店の扉を開けてタオルを放る。
小さく会釈するとクラウドは受け取ったそれで濡れた髪を拭った。
「ティファちゃんから電話があってね。もし寄ったらって、部屋を取ってあるんだ」
まじまじと店主の顔を見詰めていたクラウドだったが、僅かに口元を緩ませると一言。
「いえ…帰ります」
ふん、と息をつく店主はだろうね、と笑みながら呟いた。
「まあ、気をつけて帰りな」
借りたタオルを主に返すと、また会釈してクラウドは激しい雨の中にその身を躍らせて行った。
「ただいま」
からん、と店の扉を鳴らしてそこに必ずあるはずの笑顔を探す。
「おかえりなさい、クラウド」
やっぱり、と一言付け加えながら、自分が求めた笑顔の持ち主は、期待以上の屈託ない笑顔で出迎えてくれる。
「ああ、もうびしょ濡れじゃない」
用意してあったのだろう、清潔なタオルで毛先からぽたぽたと水の滴る髪をわしわしと拭いた。
「寒かったでしょ…」
視線をはずそうとしない自分にティファは少し頬を赤らめている。
「あの…お風呂も、用意してある、から」
きょろきょろと紅茶色の瞳が泳ぐ様を黙って見つめたまま装備をひとつづつ外し、剥き出しの肩や腕をおずおずと拭っている彼女に
ゆっくりと近寄る。
同時にティファも一歩、また一歩と後ろに下がっていく。
結局、そんなに広いわけではない店内の壁に後退を阻まれ、ティファは観念したように瞳を合わせた。
「…ね、風邪、ひいちゃう……あ、コラ!」
隙間が出来ないくらいに身体を密着させながら、片手で彼女の上着のファスナーをゆっくりと下ろした。
すでに観念していたティファはほんの僅かに抵抗を試みたようだが、気にはしない。
雨は、心の奥底にしまい込んである思いを何の躊躇もなく引き摺り出し、激しく降り注ぐ雨粒に晒す。
特に、忘れようとしている訳では、ない。
…忘れることなど出来はしないのだ。
開かれた胸元の小さな傷痕に遠慮の無い視線をぶつける。
あきらめた風情のティファはされるがままに、しかしニュートラルな表情で、その行為を見守ることにしたようだ。
少し前までは痛みの表情を見せていた彼女に、自分も同じような顔をしている事に気づいているか、と問われたことがあった。
柔らかく、滑るような肌にほんの数ミリ盛り上がった、新しく形成された皮膚。
その薄桃色の部分にそっと唇を寄せる。
ぴくり、と僅かに彼女が震えたのを密着させた全身が感じ取った。
あたたかな胸のぬくもりと少し早い鼓動。甘いティファの香りの中で。
胸の傷痕に口づけながらクラウドは誓う。
もう二度と。
二度と、君を傷つけない。
身体も、…心、も。
そのために、強くありたいと思う。
いつの日か、
この身が朽ち果てる、その日まで
全身全霊で
この笑顔を、守る。
「…クラウド」
ふわり、と細い腕が頭に絡みついた。
「ね、お風呂に入って。ほんとに風邪ひいちゃう」
心配そうな影を落とした赤い瞳を見上げながらそっと舌で傷痕を舐めた。
「…やっ……もう!クラウド?!」
「ティファが一緒じゃなきゃイヤだ」
身体を離すと自分のぐっしょりと濡れた衣服の水分を彼女の衣服がしっかりと吸い取っている様を見やる。
「風邪ひくぞ」
不敵な笑みを堂々とぶつけると、彼女はまたあきらめたように盛大な溜息をついた。
「…ヘンな事しないならいいよ」
「それは保証できないな」
即答に、一気に朱に染まる頬を満足気に見つめると、その細い腕をつかんでつかつかと階段へ向かう。
自分の後ろで雨の日のクラウドには敵わないわ、と呟く愛しい彼女にくくっと笑いが洩れた。
時を追うごとに次第に激しさを増す雨は容赦なく部屋の窓を叩く。
その轟音とも呼べるべき雨音は、鬩ぎ合う互いの息遣いに掻き消され、
二人の耳に届くことは無い。
明日は、きっと晴れるだろう
FIN
某所にて愛するお友達に差し上げたお話。
雨の日はテハさんクラウドの好きにさせてあげてるみたいです。
え?いつもそう?
…そうですね(爆死)
いいなあ、クラウド☆