<SS Attack>
「クラウド、今どこ?もう帰れる?!」
携帯を耳に押し当てたとたんに放たれた焦り声にクラウドは驚いた。
「もうすぐミッドガルだ。どうした、マリン。今日は店休みだろう?」
「ティファが…」
「ティファが?」
一瞬にして彼の表情が冴えた。
Attack
「わかった。帰りに寄っていくから、お前達はちゃんと戸締りして先に寝てていい。
…ああ、わかった。デンゼルに歯磨きを忘れるなと伝えてくれ」
通信を切ったクラウドはすっかり暮れた辺りの闇にぽうと明かりを放つ画面を見詰める。
一度彼女の番号を表示させてからしばし考え、
ぱちん、と閉じるとそれをポケットにねじ込んだ。
「…行った方が早いな」
独りごちると、エンジンの回転数をあげた。
エッジの大通り沿いにあるカフェ、ジョニーズへブンで、その店主であるジョニーは深いため息を吐いた。
調理場とも呼べる小さな屋台から目の前に広がる空き地に並べたテーブルの一つを見やる。
そこで突っ伏したまますうすうと寝息を立てる女性。
かつてジョニーが恋焦がれ、今ではその力強い生き方に尊敬すべき心の師ともなった、ティファ=ロックハート。
「なんでこんなことに…」
3ヶ月ほど前に出来た街の商店街組合の寄り合い場に自分の店を提供したいと申し出たのは今ぼやいたこの男自身だった。
寄り合いと称したその会合は集まる人間の殆どが酒飲みで、結局話し合いと言うよりいつの間にか酒盛りと化すそれは、深夜遅くまで続く。
子供が小さいと言う理由でこれまでの会合に不参加だったティファを誘うべく、酒の提供をしていない自分の店を推したのだ。
まあ、ジョニーズへブンに彼女を招きたいと言う気持ちがあったこともあながち嘘にならない。
彼女がテーブルに着いたときは心の高鳴りを抑えるのがやっとだったのだから。
しかしジョニーの考えは甘かった。
酒飲みというものは、飲めないとなると意地でも飲みたくなる生き物なのだ。
口火を切ったのは組合長である男。どんなルートで手に入れたのか、見たことも無い酒を抱えてやってきたのだ。
ジョニーは顔を片手で覆った。
ティファには今日は酒は出ないと豪語してあったからだ。
指の隙間からそっと彼女を盗み見ると、ティファは商売柄か、その珍しいと言われる透明な瓶に興味津々だった…。
「クラウドさんに迎えに来てもらえ」
軽い口当たりの割りにかなり強い酒を腹に収め、少しふらついた様子の組合員たちは組合長のその言葉に一瞬我を取り戻し、
テーブルに突っ伏して眠ってしまったティファをちらりと見やると、ジョニーに小さくねぎらいの言葉を思い思いに伝え、
そそくさと帰路についていった。
誰一人「送ってやれ」と口にしなかったことに思わず薄笑いが顔に張り付く。
彼女を抱き上げようと手を触れた瞬間にもアイツがどこからかすっ飛んできて真っ二つにされそうだ。
「こ、…怖い」
本気でそう思うジョニーは夜風を避けるためのブランケットをそっと彼女に掛ける事くらいしか出来なかった。
先程震える手で連絡を取ったマリンからの折り返しでじきにアイツがここに来ることは判っている。
ティファをこんな状態にしてしまった言い訳を兎に角あれこれと考えあぐねるジョニーだった。
「ティファ、家に着いたぞ」
片腕にティファを抱いたままの走行は至難の業であるが、そこは超人的な彼の運動神経の賜物と言うことで割愛する。
「歩けるか…?」
ぐったりとした腕の中のティファは酔いの為か頬をほんのりと紅潮させ、ん〜〜〜とクラウドの胸にそれを擦り付けた。
「クラウドの声だ〜…おかえり〜…」
いつになく甘えたような声は酔っ払い特有のものか。
もぞもぞと身動ぎする彼女にクラウドはバランスを崩しそうになる。慌ててバイクのスタンドを降ろした。
「…おい、ティファ。暴れるな…」
言い終わらないうちにティファの両腕が首に絡んだ。
「ティ…」
ぴっとりと密着した胸。己の首筋にすり寄せられた彼女の唇から熱い吐息が漏れ、鎖骨を掠める。
「…………」
クラウドの心臓が恐ろしいほど早鐘を打った。
酔っ払いだ。しっかりしろクラウド。
こんな状態のティファに手を出すほどがっついてる訳じゃない。
ため息に見せかけてひとつ深呼吸をすると、平静を取り戻す。
首に絡みついた彼女を抱えなおしてバイクから降車し、既に明かりの消えた家の扉をくぐった。
寝台にそっとティファを降ろすと彼女がぱか、と目を開けた。
「ティファ、大丈夫か?」
「…暑い」
「…え?」
クラウドの問いかけに反応するでもなく、うつろな瞳は宙を見据えたままだ。
「暑ーーーい!!」
上半身をがば、と起こすとティファはいきなり上着のファスナーを勢いよく引き降ろした。
「お、おい、ティファ?」
ぽい、と脱ぎ捨てられた皮製の衣服を目で追う。
かちゃかちゃという音に目を戻すと今度は腰元のベルトをおぼつかない手で外そうとしている行動が飛び込んでくる。
目の前で起こっている現象を呆然と見詰め、ふとこのまま見ていていいものか迷う。
彼女の着替えを目にするのは初めてではない。
毎朝自分より早く起きるティファは眠っている(と思っている)自分の目でさえ気にしながらこっそりと済ませるほど恥ずかしがりなのだ。
部屋から出ていたほうがいいだろうか。
うん、そうだ。出て行こう。
何となくそれが最良と決断するや否や、ベルトを外すことに失敗したティファがおもむろに五分丈のスパッツを引き降ろした。
「クラウドぉ…手伝って〜」
エプロンの裾から伸びる素足、正確に言うと太腿に思わず動けないでいたクラウドは名前を呼ばれてびくっと身を強張らせた。
「はい?」
ちょっと裏返った気がする。
見るとティファは両腕を背中に回し、タンクトップの中でその両手が悪戦苦闘していた。
「取れないぃー…取ってぇ」
「と、取れない…?」
よいしょよいしょ、と寝台の上で背中をこちらに向けた彼女。
「ん、」
外せと言っているのだ。ブラの。ホックを。
初めてではない。
初めてではない。
すっかり覚えたハズのその構造を頭に思い描きながら、何故か震える指でそれを外した。
ほーー、と気持ち良さそうに吐息を吐いたティファはころんとまた横になる。
先程までとはまた違った動きがタンクトップの下で起きている。
「…………」
ティファは酔っている。
酔っているぞ、クラウド。
こんな状態のティファに手を出すほど…(以下略)
クラウドは、顔を上げた。
そうだ、水を持ってこよう。
とにかく、まずはこの部屋から出よう。
うん、と独りで頷くとクラウドは身を翻した。
「クラウド」
再度名を呼ばれた彼はまたもやびくっと身を震わせた。
「どこ行くの?」
口調が変わっている。クラウドが恐る恐る振り返ると、依然とろりとした目つきのティファが見上げている。
「いや、水を」
「こっち来て」
「はい」
クラウドは身を起こしたティファがぽんぽんと示した彼女の隣へ素直に正座した。
その頬へ彼女の柔らかな掌が触れる。
「…ほんとに綺麗なんだから。…腹が立つわ」
言いがかりだ。
クラウドはその言葉を飲み込んだ。酔っ払いとは得てして妙なことに突っかかるものだ。
何よりティファの鳶色の瞳はとろりと潤んではいるが、据わっている。
下手に応えれば、これ以上何を言われるかたまったものではない。
考えていると頬にあった手がつ、と首筋に降りた。
「…ティ」
「黙って」
紅い花びらのような唇がクラウドのそれを塞いだ。
柔らかな感触と強いアルコールの香り。
ゆっくりと口唇を離した彼女の指が更に蠢く。
「おい、」
いいのか?
「ティ」
酔ってるぞ?
「うわ」
…いいか。
明日、ジョニーにその酒の名前を聞きに行こう。
FIN
良いのかどうかは柊にも聞かないでください。
私も聞きたいんですが、
コレ、ここに置いてもいいデスか…?(遅いよ…)
ジョニーが生きているのかどうかもサッパリです(笑