<SS Afterwards>


Afterwards





「ティファ」


「え?」

グローブを取り出そうとした右手をつかまれ驚いて振り返ると、

振り向きざまにクラウドの逞しい胸に引き寄せられた。

優しく、限りなく優しく、でも力強く抱きしめられる。

「…ク…」

久しぶりのクラウドの腕の中。クラウドのにおい。厚い胸板に意識が遠のきそうになる。

「…ティファ」

耳元で掠れるような甘い声を受け止め、脱力しそうになる膝をかろうじて留めた。

思わずその引き締まった背中に腕をまわしたくなる。が。

「…ク、ラウド、みんなが…」

そんな場合ではないのだ。

なんとかその胸板に手を割り込ませ、彼を押しのけようと試みた。

だがその行為は裏目に出た。

少しだけ離れた隙間から彼の透き通るような魔晄色の瞳に囚われてしまったからだ。

「…あいつらなら少しくらい平気だ」

「ばっ…!何言って…」

こんな時だというのに妙に落ち着き払い、軽く微笑まで施している端正な顔が、はたと神妙な、困ったような表情に変わる

ティファはこの表情をするクラウドを久しぶりに見た気がする。

そう、クラウドがこんなカオをする時は決まって…。

みるみるティファの頬が朱にそまってゆく。

案の定、彼の両手がティファの熱くなった頬を挟み、顔の角度を変えて近づいてきた。

「や、ちょ、ちょっと、クラウ…」

頭上では今まさに仲間たちがバハムート相手に死闘を繰り広げているというのに。

もぞもぞと、なんとかこの状況を打破しようと試みるのだが。


「今まで…ごめん、な」


その言葉でティファの動きが止まった。

「…クラウド…」

鼻の奥がツンと痛んだ。目頭が熱くなり、クラウドの顔が滲んでみえて、

ティファはそっと目を閉じた。

吐息が、ティファの唇を掠めたそのとき、頭の上で爆音が響いた。

バハムートが発したメガフレアが鉄骨に命中し、真下に居たバレットめがけて崩れ落ちてきたのである。

「バレット!!」

ティファが叫ぶ間にクラウドが跳躍していった。

もちろん、仲間の危機を救うためだ。

しかしティファは知っている。

寸前に彼がいまいましげに舌打ちしていったことを。








「デンゼル、眠たいんじゃないの?」

店の洗い場で食器を洗っていたティファが、こしこしと目をこするデンゼルに声をかけた。

「…ん」

無理もない。時計をみるともう夜半を超えようとしている。子供の起きている時間ではない。

ティファは水道の蛇口をひねった。

「マリンは…」

タオルで両手を拭いながら店内を見渡すと、バレットの横で小さくなって眠っている少女を見とめる。

「あらあら、風邪引いちゃう」

マリンを抱き上げようとしたティファの肩を制するものがいる。

「俺が連れてく」

クラウドだ。

ひょいとマリンを抱き上げると、

「デンゼル、いくぞ」

デンゼルも素直に従い、クラウドの服の裾をつかむと一緒に階段を上がっていった。


「…んじゃあ、俺様たちもそろそろ引き上げるかぁ」

シドがのびをしながら立ち上がった。

「え?帰るの?せっかくだから泊まっていけばいいのに…」

「ああ、いーのいーの!明日もあちこち飛び回んなきゃなんないんだし、それに…」

ユフィが含み笑いをした。

「な、何よ」

ユフィがこんな笑い方をする時は決まって何かあるときだ。

彼女がさっと耳元に寄ってきて囁いた。

「実はサ、…見ちゃったんだよね、アタシ」

嫌な予感は的中したようだ。

「ななな、何、を?」

動揺が声を震わす。

それを尻目にユフィは腕を伸ばし、空中で交差させ、自分を抱きしめる仕草を見せた。

「こう、ホーヨー…っての?いや、びっくりサ。あんな時にね〜」

顔に火がつく音がしたような気がした。

みるみる染まってゆく頬をユフィは満足げに見つめ、

「じゃね、今夜はゆーーーーっっっくりと、」

「ユフィ!!」

「おらおら!行くぞ!」

酔いつぶれている赤い獣とその上で動かなくなっている猫を蹴り上げ、隅の方で買ったばかりの携帯電話を凝視し、

しきりになにやら押しつづけているマント男の首根っこを掴むとひきつれてシドが出て行った。

「あ…バレットも?!朝、マリンが淋し…」

バレットはなんぞ言いたそうだったがユフィに引きずられて出て行った。


「もう…」

急に静かになった店内で、ティファは熱くなった頬を両手で冷やすと、その辺にまだ散らばっていたグラスをひとまとめにし、洗い場に戻っていった。








子供部屋をそっと開けると、狭い子供用の寝台に三人で窮屈そうに眠っている姿が目に入った。

マリンも目を覚ましてねだったのだろう、クラウドの手にはティファがいつも寝る前に読み聞かせている本が開いたままひっかかっている。

あどけない三人の寝顔に思わず笑みがこぼれた。

「…せまそうね」

起こさないように、ティファは棚から毛布を人数分取り出すと寝台の隅に腰掛けて、ひとりずつかけて回った。

マリンとデンゼルにおやすみのキスを落とす。

「いい夢がみられますように」

気休めかもしれないが眠る前、ティファは必ず子供たちにはこうした。

デンゼルに初めてそうした時は恥ずかしそうに、それでも子供らしい瞳で見上げてきたものだ。

ふと、隣で眠るクラウドに目をやる。

昼間の戦闘時からは想像もつかないくらいのあどけない寝顔。

こうしてみると…

「ふふ。…デンゼルとそっくり」

いくら傷を癒されているからといって、やはり疲れているのだろう。

窮屈そうだが、起こさないでこのままにしてあげよう。

「…カッコ良かったゾ」

そっとクラウドの頬に唇を寄せようとしたが、少し考え込む。

目の前で眠るクラウドの端正な顔。


長い睫毛。


筋の通った鼻。


整った口元。


自分の頬が急に火照りだすのを止めようがなかった。

ティファは思う。


キス、くらいで…。


そう、キスくらいでティファはこんなにも動揺する。


クラウドとは何度もキスをしたことがある。

キスどころか、何度も肌を合わせてもいる。

それでも、ティファは恥ずかしい、と思ってしまうのだ。

生まれもっての気質なのか、いや、…ただ単に相手がクラウドだからなのだろう。

慣れることなど、到底出来ない。



たかが頬へのキスくらいで寸での所で躊躇していると、体の下でデンゼルがもぞもぞと動いた。

「…!」

驚いて体制を戻し、高鳴る鼓動を両手で押さえながら見ると、彼はまた静かな寝息へと戻っていった。


長い安堵のため息が漏れる。


少し自嘲気味な笑みをつくると、寝台から離れようと手をついた。


その手をぐいとつかまれて、ティファはまた寝台に引き戻される。

「…きゃ、」

「…俺には、ないの?」

「…!!」

少し拗ねたような顔をしてクラウドが半身を起こした。

「…お、起きてたの?」

クラウドはちょっとバツの悪そうな顔をして後ろ頭を掻く。

「…寝てなかった…が本当、かな」

ティファの顔がかっと熱くなった。

(…やだ…聞かれてた)


「なあ、ティファ、…俺には?」

頬を朱に染め、それを悟られないようにと顔をそむけるティファにクラウドが真顔で言った。

「な…何、が?」

ティファはおたおたとその辺のシーツをくしゃくしゃにする。

「デンゼルとマリンにはしてたろ?」

「………」

気づいているのだ。ティファがクラウドにキスをしようとしていたことを。

耳まで熱くなってきた気がする。これじゃあ顔を背けていても意味がない。

「なあ、」

背けた顔を覗き込むようにしてしつこく問いかけてくる彼の口調がいたずらっぽさを帯びてきたのに気づき、ティファは声を荒げた。

「…もう!子供じゃないんだから、いいでしょ!」

顔をあげ、クラウドを押しのけようと腕をだしたとたん、

「…じゃあ、」

その腕を簡単に取られ、引き寄せられる。


「オトナのほうでいい」



やわらかな笑みに引き込まれた瞬間、唇にあたたかなものを感じた。

クラウドの唇だ。

優しく口付けてくる。


懐かしいその感触に、強張らせていた体の力がふっと抜けていくのを覚えた。

ティファはゆっくりと目を閉じる。伴ってぽろり、とひとすじ、涙が零れた。

その雫に気づいたクラウドは、もう一度角度を変えて軽く口付けると、あの居心地の悪そうな、神妙な顔をしてから、悪戯っぽく口端をかすかに上げた。


「…子供じゃないから、別のベッドに行く?」


ティファは真っ赤になった頬を片手でぐいとぬぐうと、素直にこくん、と頷いた。

その様子にクラウドは一瞬見惚れたような表情をつくると、音を立てないように寝台から降りティファの手を取る。

立ち上がらせてそのまま手を引き、

そっと子供部屋を出て、


ゆっくりと扉を閉めた。





FIN

AC鑑賞直後に勢いで書いたお話。
イラストもその時に勢いで…全然衣装とかの情報が無くて滅茶苦茶です。
直すのもアレなんで(どれ?)、記念にこのまま(ぇ
…リボンくらい塗ってやれ?

バハムート戦でバレットの「遅ぇんだよ!」発言は妄想を炸裂させます。
だってだって、フェンリルに二人乗りですよ〜v
吹っ切れた感バリバリのクラさん、絶対なんかしでかしてるに違いない。
EDの後は、どっかでちゃんとティファに謝って欲しいと思ってたので、それならここで、と。
その後のクラウドリレーでティファに微笑む彼はホンマ見モノですわ。

やればできるんだから!クラウドは!(笑)

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