<SS Blessing 3>


「ストライフさん、起きられる?」

カーテンを開ける音と共に眩しい光が差し込んで、ティファはゆっくりと目を開けた。

呼ばれ慣れない名前を口にしているのは白衣を着た・・・医者だろうか。

ふと寝台の横にあるパイプ椅子を見る。

・・・夢だったのかしら。

「ご主人なら、朝方家に戻られましたよ?」

主人。・・・確かに私たちのことを夫婦だと思っている人間はたくさんいる。

家族には変わりない、とクラウドもティファもそれを否定まではしなかったが。

「・・・あの、私どうして」

寝台から上体を起こして傍に立っている医者に問う。

「ご主人から、まだ聞いてない?」

白衣の前を正しながら、医者は空いているパイプ椅子に腰掛けた。

「・・・じゃあ、まずはおめでとう」

ティファは目を2〜3回瞬いた。

「だいたい5週目に入ったところくらいかしら」

・・・何?

「このくらいの時期だとまだ気がつきにくいわね。でもなにか身体の変調はあったんじゃない?

例えば・・・情緒不安定とか」

「何の・・・話です、か?」

ぼんやりと医者の顔を見つめているティファに、首を少し傾けながら優しく言った。

「妊娠している、と言ってるんだけど」


呆然と空を見詰めるティファに医者はおめでとう、ともう一度言った。

「食べたくないかもしれないけど、随分衰弱してるから少しでも食べた方が良いわ。その子のためにも、ね」

運ばれてきた朝食を寝台の横のサイドテーブルに置く。


「・・・・・・・・・」


どれくらい、そうやっていただろう。

気がつくと、病室には誰も居なかった。

そっと自分の下腹に触れる。昨夜の彼女の手の温もりがよみがえる。


妊娠・・・?



クラウドの、子供・・・?



考えると、頬が上気してきた。

「・・・嘘・・・本当・・・?!」



ふと、急に不安が押し寄せた。


クラウドは、どう思っただろう。


医者の口ぶりでは、彼はもう知っているようだ。


・・・産みたい。

彼の子供を、この手で抱きたい。


クラウドは、きっと自分の体内に巣くっているあの細胞のことを気にしているはずだ。

だから、いつも・・・行為に及ぶ時は必ずといっていいほど避妊していた。

それなのに・・・。


私が妊娠したことを知って、彼は、どう思っただろう・・・。



「ティファーー!!」


気分が下降していこうとした矢先、元気なマリンの声が病室に響いた。

「マリン!」

戸口にはもじもじとしたデンゼルも頬をかすかに上気させて立っている。

走ってきたのだろう、マリンの息は荒い。

「マリン、病院は走っちゃダメじゃない」

「ごめんなさい、だって、私嬉しくて・・・!」

ティファは頬を染めて嬉しくて仕方が無いといった風のマリンの顔を首をかしげて見詰めた。

「赤ちゃんが生まれるんでしょ!?男の子かな?女の子かな?楽しみ〜〜」

「ま、マリン、どうしてそれ・・・」

きょとんとしたマリンが今度は首をかしげて言った。

「クラウドが教えてくれたよ?」

朝起きたらクラウドがいてびっくりしちゃった、と続けた。

戸口を見ると、未だ頬を赤らめてもじもじしているデンゼルをせっついて部屋に入ってくるクラウドが目に入った。

ほら、とデンゼルの背中を押すと、デンゼルが恥ずかしそうに

「お、俺は・・・弟がいい・・・」

と俯きながら言った。

どっちでもいいじゃない!とマリンが異論を唱える。

「よし!時間だ。二人とも学校に行け」

騒ぎ始まった子供たちにおとなしく返事をさせると、

「ティファ、また後でね!」

「行ってきます!」

と走って行く二人の後姿に走るな、と声をかける。

そんな光景をぼんやりと眺めながら、ティファは椅子に座るクラウドにゆっくりと視線を移す。

子供たちに、話してくれてたんだ・・・。

「・・・どうした?」

「え?・・・あ、ううん、あの・・・私」

「ティファ」

言葉を遮られて、クラウドを見上げる。

「ティファさえよければ・・・俺は・・・」

視線をちょっと外して、しかしもう一度ティファを見詰める。

「・・・産んで欲しいと思ってる」

ティファさえ良ければ、ともう一度付け足した。

「・・・いいの?」

目のふちが熱い。

クラウドは椅子から立ち上がり、ティファの隣に向かい合うように座った。

「俺は・・・今、ものすごく、嬉しい」

ティファの大きな瞳からこぼれ出る涙を指ですくい、そのまま頬を捕らえると涙ごと瞳にキスをする。

「・・・クラウド・・・」

「バレットにだって抱きつきたい気分だ」

バレットに抱きつくクラウドを想像してティファは吹き出した。

「キスしてやったっていい」

「やだ、やめて。想像できない」

肩を揺らして泣き笑うティファの唇をそっと奪う。

ゆっくりと唇を離し、クラウドは綺麗な魔晄色の瞳を少し揺らすと、伏せた。

「・・・ティファに・・・俺の運命を背負わすのは・・・正直、辛い」

ティファの体を両腕で覆い、抱きしめる。強く。

「勝手なことを言ってる。・・・わかっているんだ。それでも、・・・それでも俺は、」

ティファはその背中に腕をまわして抱きとめた。


「クラウド」


気がついたように、クラウドはすまない、と腕の力を緩めた。

その気遣いが妙に嬉しい。

「私ね、ずっと・・・その、・・・生理が不順で・・・7年前から」

あの事件以来の強い悲しみに体はまともに影響を受けていた。

クラウドの胸に頭を預けたままティファは言葉を続ける。

「女として、・・・母親になることなんて、ずっと、・・・あきらめてた」

体を覆うクラウドの腕に少し力がこもった。

「だから・・・ここに、クラウドとの新しい『いのち』があることがわかった時、すごく、すごく嬉しかった」

ちょっと顔をあげて、クラウドの表情をのぞき見る。

「・・・バレットに抱きついて、キスしてもいいくらい」

「それはダメだ」

即答だった。あせったような彼の動揺にティファはまた笑った。

「でもね・・・クラウドは、どう思ったかな、って考えたら・・・少し怖くなったの」

俯いたティファの柔らかな黒髪がさらりとクラウドの腕にかかる。

彼は慣れた手つきでゆっくりと梳いた。

「・・・あなたが自分の体のことを気にしていたのは知ってる。私を気遣ってくれてたことも」

ティファは身体を起こし、クラウドを正面から見詰めた。

「もし、クラウドが反対するなら・・・私独りでもこの子を」

「ティファ」

言葉を打ち消すように、強く、真摯に呼ばれる。怒ったようなクラウドの蒼瞳にティファは溢れくる愛しさを込めて視線をぶつけた。


「・・・産みたいの。この子を、あなたの腕に抱かせてあげたい」

クラウドは少し眩しそうに瞳を細めた。

「・・・でも、ティファ」

「あなたの運命は」

クラウドに言葉を続けさせなかった。またゆっくりと、腕を彼の背中にまわす。

「・・・私が抱きしめてあげる」

こうやって、と優しく力を込めた。

「・・・背負うものなんかじゃないわ・・・」

もちろん、マリンもデンゼルも、この子もよ、と呟く。

肩口にクラウドの額があたった。

「・・・ティファ」

もう一度抱きしめられる。

「愛してる、ティファ」

うん、クラウド。

言葉に出すかわりに、背中に回した手に力を込めた。

「・・・愛してる」

かすかに震える声。


その言葉に、しばし浸る。


愛してる





「それにね」


クラウドが耳を傾ける気配を感じる。

「この子、もう祝福を受けちゃってるの」

顔を上げるクラウドの額にちゅ、と口付ける。

「しっかり育てないと、怒られちゃうんだから」

誰に、とは敢えて言わなかった。クラウドも聞かなかった。

わかっているから。

笑むティファにクラウドはそうか、と相槌をうつと微笑みながらその唇を塞いだ。


私たちはすでに歩み始めている。


見たこともない未来へ。



それがどんなものであろうと


怖くなんてない。



あなたが、いてくれるから。




もう、



あの夢は見ない――――――。







                                              FIN






おまけ



「触っても、いいか?」

「どうぞ」

おずおずと伸ばされる手がそっと下腹に触れる。

「ふふ」

少し照れたように、子供のような顔をしてお腹を見詰めるクラウドに笑みがもれた。

「・・・思い悩んで・・・前みたいに、また出て行っちゃったらどうしようかと思っちゃった」

クラウドはティファを見詰めると、少し瞳を伏せる。

「・・・そこまで無責任じゃないぞ」

「行いが悪いんです」

少し口を尖らせてティファが言うと、そうだな、とクラウドは頭を掻いた。

「でも」ティファはゆっくりと続ける。

「・・・真っ先に子供たちに話してくれて、・・・嬉しかった」

微笑むティファにクラウドもまた優しい表情をみせる。

「ティファとちゃんと話してからにしようと思ってたんだけど・・・誰かに言いたくて仕方なかったんだ」

居心地悪そうなクラウドを見てくすくすとティファが肩を揺らす。

「ティファ」

ん?と顔を上げる。

「・・・ありがとう」

頬に唇の感触。

「・・・今朝も聞いたよ、それ」

クラウドが一瞬息を呑む気配がした。

「気がついてたのか」

「クラウド、泣いてたでしょ」

「な・・・泣くわけないだろ」

体を離して顔をそむけるクラウドの頬が少し染まっている。

「泣き虫なパパさんですね〜」

自分のお腹に向かって話しかけるとクラウドが驚いたような顔で振り向いた。

「パ・・・だから泣いてないって」

言いながらまた頭を掻く。

「・・・パパ・・・か」

ムズ痒いな、と照れながら。




長くてスミマセン。
孕み話は書いてしまうともうそこで終わっちゃうような気がして迷ったんですが…
書いたらこれが楽しくて(笑)
ACではティファとエアリスの絡みが無くてめっさ悲しかったので逢わせちゃいました!
うえへへ。
デンゼルもこの時はまだリックスとは仲直りしていないはず。。。
…うえへへ。

クラウドもティファも、子供は欲しいんじゃないかと思います。
養子はいるけど、肉親、血の繋がりってやっぱりすごく嬉しいんじゃないかと思うのです。
ジェノバ細胞については柊、特に深く考えてません(ぇ
クラウドはとっても気にしてるけど、結局二人でちゃんと乗り越えていくんでしょう。
いや、そうであれ。
大好きな人との間に出来た小さな「命」。
失くしてばかりだった二人がそれを育める喜び。
ああ、涙(お前がか)
クラさん、嬉しくて病院から家に帰る途中バハムート戦場だった鉄筋の一番上まで登って
朝日に咆哮してそうです。はい、妄想妄想。

そしてDCではティファは妊娠中…(ゴフ)

戻る