<SS Again and again 2>



「好きだ」



ティファが…言ったのにな



「好きだ」



想いを伝えられるのは…言葉だけじゃないって



「好きだ」



言葉にしなきゃ…伝わらないこともあるんだよな



「好きだ」



ティファと一緒に暮らし始めて…俺は初めて『幸せ』というものを感じた。

これ以上にないほどの安らいだ時間が、ここにはあった。

その幸福が…急に怖くなった。本当に、これでいいのか、俺には…そんな資格があるのか。

一度は何としてでも生きていこうと思ったことすら、怖いくらいの傲慢に思えた。

仕事で家を離れる時間が長くなればなるほど、…一人でいる時間が長くなればなるほど、その思いは強くなった。



「好きだ」



自分に星痕ができて…俺は死ぬんだと思ったら、可笑しくてしかたなかった

俺の『新しい人生』は…また失敗する。罪を背負って、償いながら生きていくことすら出来ないのかと思ったら、笑いが止まらなかった



「好きだ」



…ティファの前から逃げ出したのは、俺の弱さの所為だ。



「好きだ」



俺がこの病で死ぬのは必然だと思った。俺はいい。

でもティファは…ティファには生きていて欲しかった。ティファには、星痕にだけは侵されてほしくなかった。

治療法がない。感染経緯も解っていない…俺がもし、うつしてしまったら。

それだけは避けたかった。どんなことをしてでも、それだけは。

だから俺は………いや、それだけじゃないな



「好きだ」



そのうち俺もあの黒い膿にまみれて死んでいく…ティファには悟られたくなかった。

…また俺のカッコつけたがりだったんだろうな。

デンゼルを助けたいなんて偉そうな事を言っておいて…こんな情けないことがあるか?

結局俺はあの頃から何にも変わっていない。

…俺には何も出来ない。助けることなんて出来ない。…家族も、仲間も



「好きだ」



ザックスも、エアリスも、あの戦いで命を失った人間も、…星痕で死んでいった人間も。みんな、俺の所為だ。

こんな事言ったら…あいつらに怒られそうだが、あの時はみんなが俺を恨んでいると思った。

教会へ行ったのは…それでも、赦されたいと思ったから。

罰を、死を受け入れたつもりでいても、赦される訳が無いと判っていてもまだ足掻き続ける自分が滑稽で…

だからあそこではまともに顔を上げることすら出来なかった



「好きだ」






「それでもあそこに居たのは…」

ティファ


好きだよ


「きっと、なんだかんだ言って、…見つけてもらいたいと思ってたんだろうな」


ティファに。


「俺の深層心理なんて…こんなもんだ」


クラウド


しなやかな腕が伸びてきて、首に絡んだ。

震える細い肢体を掻き抱き、赤い小さな唇を自分のそれで塞ぐ。すかさず舌を送り込んでおどおどと逃げ惑う彼女のそれに絡めた。

懸命に応えようとする舌の動きに互いの吐息が重なる。


クラウド


クラウド


クラウド


熱い吐息と共に耳元で囁かれる自分の名前。


好きだ


好きだよ、ティファ



何度も、何度も

言い聞かせるようにその耳元に返す。

心にも刻み込むように。打ち付けるように。擦り付けるように。

もう二度と…迷わないように


何度でもあげよう。


伝わらなかった想いを、今



何度でも









朝日の差し込む台所で簡単な朝食の用意を粗方終えクラウドは椅子に腰掛けて大欠伸をした。

何となく気だるさが体に残っているが、心地良いものだ。

腕を組み、目を閉じるとうとうとと眠気が襲う。

蒼く透明な睡魔が脳裏に焼きついた昨夜の彼女のビジョンを攫っていきそうになった時、2階で大きな音と共に扉の開く音がした。

これじゃあ彼女も起きてしまうだろうな、と階段を駆け下りてくる二つの足音を聞きながらゆっくりと瞳を開ける。

「おはよう、デンゼル、マリン」

「あ…クラウド、いた」

ひょこひょこと顔を出した子供たちはぱっと笑顔を咲かせる。

「おはよう、は?」

目覚めて、自分が居ないことに驚いたのだろう。安堵の表情にちくりと胸が痛んだ。

「おはよう!」

「おはよう、クラウド。…あれ?ティファは?」

食卓に並んだ朝食の用意を眺め、辺りを見回したマリンが聞いた。

クラウドは椅子から立ち上がると昨夜のうちに用意してあったのだろうスープを火にかける。

「うん。ちょっと疲れてるみたいだ…でも」

つい、と階段の上を見上げると扉の開く音がしてぱたぱたと軽やかな足音が聞こえてくる。

「ごめんね、寝坊しちゃっ…と、」

台所に入ってくるなりよろけた体をすかさずクラウドが支えた。

「あ、ありがとう」

「…キツいならまだ横になってたほうがいい。子供たちなら俺が面倒見るから」

覗き込むクラウドと視線が合った瞬間ティファはさっと頬に朱を散らせた。

「大丈夫?ティファ、お熱あるの?」

心配そうにマリンとデンゼルが見上げてくる。

ティファはそんな子供たちに優しく微笑むと

「大丈夫よ、おはよう、デンゼル、マリン」

いつもの笑顔に二人は破顔した。

マリンのおでこにおはようとキスを落とす。

デンゼルの額に口付けて、その額に見入り、前髪をそっと撫で付けると彼ははにかんだような笑顔を見せた。

「ああ!マリンも!」

「はいはい」

『わたし』でしょ?と優しく嗜められるとマリンはぺろりと小さく舌をだし、幸せそうに頭を撫でてもらっている。

クラウドがそんな光景を目を細めてみているとデンゼルがにわかに発言した。

「クラウドもしてもらえば?」

ティファはぎょっとして振り返った。

「…そうだな、もらっとくか」

「ちょっ…」

「あ、鍋が」

クラウドが指をさすとデンゼルがその先にあるスープの鍋に視線を移す。

「うわぁ、こぼれちゃう!」

マリンがコンロの火を止めに走った。

「ふぅ、危なかった…あれ?クラウド」

デンゼルが見上げるとクラウドがスープ皿を手になんだ?、と聞き返してきた。

「撫でてもらった?」

「大人だから我慢した」

我慢した割には嬉しそうなクラウドと、背後で耳まで赤くなりながらカラトリーを用意するティファを交互に見つめ、マリンとデンゼルは一緒に首を傾げた。



「なあ、ティファ」

パンをほおばりながらデンゼルは呟いた。

「ん?スープのおかわり?」

空になった皿に手を伸ばしながらティファはデンゼルを見つめた。

「…今日はクラウドと寝てやってよ」

持ち上げかけた皿を取り落としそうになってティファは慌てる。

「な…」

「クラウド、昨日も我慢したもんな」

「そうだよね、今日は私たちが我慢する番よね」

マリンと頷き合うと『お願い』の瞳で見上げてくる。

あまつさえ隣でコーヒーに口をつけていたクラウドまでもがその蒼い瞳で同じように見上げてきた。

「も、もう…しょうがないな…」

仕方なくそう呟くとデンゼルが嬉しそうに笑った。

「良かったな!クラウド」

「ああ、嬉しいよ」

カップをテーブルに置くと片手を口元に当ててくくく、と体を折り曲げて笑い出すクラウドをティファは真っ赤になった頬で睨みつけた。



笑い声が響く朝。


こんな朝をこれから何度も迎えていこう。


何度も。


いつまでも。






FIN

ACED直後のもうひとつのお話。
最後の二人で微笑み合うシーンで「なにもかも解り合う」という解釈も好きですが…。
蟠りはすっきりはっきりさせて、もう二度と迷わないで欲しいものです。
クラウドの独白はワタクシの勝手な妄想ですとも。はい。
でもティファはまだ納得はしてません。クラウドを信じていないわけではありませんが、
人間、心の奥底までなんて判らないものです。
本人だってそうです。
それをそのままひっくるめて共に在る、というのも…愛、ですよ。愛(照れ)
しかし、自分で書いといてなんですが、ベッドの中での言葉なんて信じられるものですかいね!どかーん。



戻る