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<SS Similar sense>




お馴染みの着信音。

聞き慣れたその音にカウンターの中で仕込み作業中だったティファは顔を上げると

店内の掃除に手を貸してくれていた子供たちも一斉にその音源へと視線を集中させている事に気付いて頬を緩めた。



「クラウド、いつもの所から?」

通話を終え、ぱちんと携帯を閉じると今か今かと待っていたデンゼルが期待を瞳に宿しながら真っ先に口を開く。

「ううん、もうすぐそこまで来てるみたい。何か買って帰るものはないかって」

それを裏切らなかったのだろうティファの言葉に互いの顔を見合わせて笑む二人がまた嬉しそうに見上げてきた。

「…ねぇ、ティファ」

お願い、と目が言っている。

ティファはふふ、と微笑むとひとつ頷いた。

「みんなでお迎えに行こうか」

「「うん!」」




Similar sense





早足で暮れていく夕空の街並み。

広場に面した大通りの片隅で同じ方向を伺う三つの影。

彼が現れるであろう雑踏に視線を廻らせながらティファは隣で首を傾げたり伸び上がったりする子供たちの真剣な顔を見遣る。


誰よりも先に見つけよう。


そんな思いが二人の身を乗り出させているのだろう。

自分も同じなのかもしれない、とちょっとだけ傾いていた姿勢を正した。

顔を上げれば、ビルの谷間に落ちていく夕日が子供の頃見た切り立つ山の情景と重なる。


そういえば…こうやって、待ってた


「…なかなか来ないね、クラウド」

目線はそのままにマリンの声だけが少し不安そうに届く。


うん、…不安も、覚えた


何故だかワクワクする気持ちと、待たされる間のちょっとざわざわした気持ち。


でも、その人は


人の波に視線を戻したティファは両手をマリンの肩に置いた。

「…もうすぐよ」


確かに、帰って来る

期待を裏切る事の無い、暖かな笑みを湛えて

時には、小さな贈り物も携えて


暮れて霞む故郷の穏やかな風景とはかなりかけ離れている、この街。

忙しそうに行き交う人の流れ。波にのまれるクラクションの遠い響き、 喧騒。


それでも、きっと見つけられる。


いろんな思いに満ち溢れるこの子達の瞳はきっと、あの頃の自分のものと同じだから。


目を閉じて、黄昏に優しく映える彼の透き通るような金髪を思い浮かべたティファは、それからゆっくりと瞼を上げた。


あ、

「「…あ、」」


ひとつだけ飛びぬけて打った鼓動と子供たちの声が重なる。

やはり、同時だった。

案に違わぬ結果に笑みが漏れた。


「クラウド!!おかえりーーー!!」

諸手を大きく振り上げて駆け出すデンゼルとマリンを目で追ってからその向こうで照れくさそうに微笑むクラウドに

思い出の中の幼い自分も「その人」の笑顔を見つける。


「ほら」

白とブルーの二つの風船が彼の顔を横切ってマリンに手渡された。

「わあ、どうしたの?これ」

「そこで配ってたんだ」

歩いてきた道を少し振り返り顎で指し示すクラウドの衣服を掴んだデンゼルは風船かぁ、と不満の声を漏らした。

「子供みたいだよ」

少し尖らせた小さな唇を穏やかに見つめる彼はくく、と肩を揺らす。

「…いらないなら二つともマリンのものだ」

「いいの?!」

すかさず満面の笑みをクラウドに向けたマリンがデンゼルをうふふと覗き込んだ。

「お、俺こっち!」

小さな手から奪い取られた青い風船が走り出したデンゼルと共にティファの前を通り過ぎる。

ずるい、と駆け出していくマリンを目で追った彼はティファの目の前まで来ると押していたバイクを止めて首を傾げた。

「…選択を間違えたか」

同じ色の方が良かったのか、と聞いてくるクラウドの妙に真剣な表情に思わず噴き出す。 

何だよ、と頭を掻く彼に笑いながらごめんなさいと呟いた。

「…やっと笑った」

え、と目の淵に滲んだ涙を拭うと振り仰いだ先にある優しい微笑み。

「さっき目が合ってからずっと…ヘンな顔してた」

どきりと波打つ、こころ。

どうせヘンな顔ですよ、と顔を背けて歩き出すとくく、と笑った彼も続いてフェンリルを押し始める。

「…泣きだすのかと思った」

「……」

言い当てられたが前を向いたまま振り返らなかった。ちょっと今の顔は見られたくない。

「ティファ」

「ん?」

黙ったまま歩き続ける背中に声がかかり、つい振り返ってしまった。

ぷ、と噴き出すクラウドに染まっていた頬が更に熱くなる。

「もう…なに?」

「ティファの分もあるんだ」

両手で頬を押さえる目の前に差し出される花。

少し照れくさそうな彼の顔。

「…摘んできてくれたの…?」

受け取ったそれは無造作に束ねられていて、道に咲いていたものだと確信する。

まじまじと見つめるとぷいとそっぽを向くクラウドがもう泣くなよ、と呟いた。

「ありがとう…」

この歳で土産をねだった訳ではない、という主張はこの際どうでもいいと思えた。

道端で花を摘み取る彼の姿を思うと自然に笑みが漏れる。

「嬉しい」

笑いかければ、少し満足そうに口端を上げるクラウドがまた頭を掻いた。



女の子は、『父親に良く似た人』を選ぶと昔誰かに聞かされたことがあった。

隣を歩くクラウドの精悍な横顔をじっと見つめる。

「全然…似てないけど」

零れた言葉に ん?と振り向く彼の視線から意図して逃れた。

「…なんでもない」

貰った小ぶりの花々に ね、と微笑む。

ふと彼の手が自分のそれに絡んだ。

驚いてどうしたの、と問えばなんとなく、と返ってくる。

目を合わそうとしないクラウドの少し染まったように思える頬に ふふ、と口元を緩めた。




姿かたちは似ても似つかない


でも、掌に伝わるこの暖かさは…



ティファは目線を落とす。


繋がる二つの刻々と長く伸びる影。

その先で嬉しそうに手を振る子供たちの姿がぼんやりと滲んだ。



知ってる?

こんなにも安心できる事。

あの子達も、


…私も。





父と

手を繋いで短い家路を歩いた

黄昏を纏う遠い日々。


全ての不安を無償で取り除く、存在。








FIN



ファザコンティファで(笑)
「無償」はやはり子供達に向けるものであって、ティファには「有償」な気もする我が家のクラウド氏(ぇぇ)
…どうなんでしょ。
しかし、男の子と女の子に持ち帰る土産物の色は大体判るだろうて…。
ヘンな所で気の利かないそんなアナタが大好きです。でへ。

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