<23000HITキリリクSS In fact…>



小さな 小さな 

指先

小さな 小さな






In fact…






ふあ、と欠伸をしかけたティファがはっと気付き、洗い物の手を止めてそれを噛み殺した。

何度目だろう。厨房を通りがかりそれを目にしたクラウドは自分の視線にぽ、と頬を染める彼女に小さく苦笑する。

「…ごめん」

背後からそっとその身体を抱きしめてそう耳打ちすると、みるみるうちにその耳までもが朱に染まる。

「ち、ちが…」

言い淀み、そのまま黙り込むティファの嘘の吐けない性格に思わず笑みがこみあげ、くくくとその細い肩に頭を凭せ掛けた。

「…ちっとも反省してるように見えないんだから」

真っ赤な頬で唇を尖らせたティファはもう、と小さな溜め息を吐いて見せる。

「でもティファにだって非はあると思うぞ。あんな…」

「ま、待って。もういいわ、この話はこれでおしまい。お仕事遅れちゃうよ?」

こんな耳の側で昨夜の事象を思い起こさせるような事を囁かれたのでは堪ったものではない。ティファは慌ててクラウドの言葉を遮ると

途中だった皿のすすぎに専念した。

可愛いな、と未だ赤い頬に軽くキスを送るクラウドにどうにもならん二人だと作者も思う。





「ちょっとちょっと、それ何度目〜?」

「あ…ご、ごめんなさい」

またもや欠伸を噛み殺すのに失敗したティファは卓席で頬杖をつき、半目でじとりとこちらを見ている忍者娘にしゅんとして謝った。

「折角このユフィちゃんが遊びに来てやったっていうのにサ…ま、しょーがないか。毎晩寝かせてもらえないんだから」

「ゆ、ユフィ!!」

真っ赤になったティファはにしし、と歯を見せるユフィを睨みつけるがその効果は薄い。

「アイツもさぞかしご満悦なんだろうね〜…あ、なんか気に食わなーい」

悪気もなくぶつぶつと呟くユフィに何を言っても無駄だと悟ったティファは冷めてしまった紅茶を淹れ直そうと椅子から立ち上がった。

途端にくらりと眩暈を覚える。

「ちょ、ちょっとティファ。ホントに大丈夫?」

咄嗟にテーブルに手をついたティファにユフィも立ち上がった。

「大丈夫よ、今朝から少し風邪気味みたいで…でもほら、もう平気」

と言ったそばからうっ、と反対側の手を口元に当てたティファはユフィの手を振り切って洗面所へと足早に消える。

「ティファ…」

「…妊娠、だな」

心細そうに彼女の消えた洗面所の扉を見詰めていたユフィは開け放たれていた店の扉に寄り掛かっている赤いマント男の言葉を繰り返した。

「に、妊娠?!…ってかアンタいつからそこに」

「話が盛り上がっていたようなのでな…」

ヴィンセントはその顔半分をすっぽりと覆ったマントの隙間から先程ユフィの見詰めていた扉を見遣る。

「あの様子なら推定2〜3ヶ月…俗に言うつわりというものだ」

「ちょ、…待ってよヴィンセント…それってそれって、オメデタってこと?!」

大きな瞳を更に丸くしたユフィがそのマントの首元を引っ掴んでガクガクと揺らした。

「先程からそう言っている」

苦しい、と零すヴィンセントを暑苦しいのはアンタのナリだよと放り出すように手放したユフィがふとそのマントの中に注目する。

「…つーか、このにおい…」

ふんふんと鼻を鳴らし、彼の持っている見覚えのある包みを目にした。

「お前が先日送ってよこしたものだ。…これは食物か?」

ユフィはその言葉に失敬な!と愛らしい瞳を吊り上げる。

「当ったり前だろ!?『くさや』はねっ、ウータイ古来から伝わる由緒正しき高級品だよ?!…あ、アンタまさか処分に困って…」

わなわなと朴訥な赤い男を睨みつけるとその朱の瞳が微かに泳いだ。

「…調理法を聞きに来ただけだ」

「う、嘘くさっ!…ちょっとそれ返しなよ勿体無い!!」

風呂敷に包まれた『由緒正しき品』を奪い取るように掻っ攫ったユフィはさっさとそれを自分の荷物の中に押し込むと少し安堵の表情を見せるヴィンセントが

それより、と零した言葉に思考を引き戻す。

「そ、そうだった!そうだよ、妊娠て…根拠は?!」

彼はその目を細めた。

「風邪疾患様症状、眠気、眩暈、吐き気…全てが当てはまっている」

「へえ…何だよ、詳しいね」

「…あの美しいルクレツィアも…悪阻には苦しんでいた」

なにやら遠くを見詰めて押し黙ったマント男をあーはいはい、とあしらったユフィは腕を組むとうーんと唸った。

やる事やってりゃ当然の結果である。他人事とはいえなんだかドキドキと胸の高鳴りを抑え切れないユフィは

洗面所からふらりと出てくるティファに気付く。

「ごめんね、ユフィ。なんだか今もの凄いにお…あら、ヴィンセントじゃない!いつ来たの?」

青白い顔をして笑顔をつくるティファにユフィが飛び掛るように詰め寄る。

「ちょっとティファ、いいからこっち座って!」

お茶を、とカウンターに入ろうとするティファを羽交い絞めにすると無理矢理椅子に座らせた。

「ど、どうしたの?ユフィ」

神妙な顔つきで見下ろすユフィの背後からヴィンセントの腕が伸びてきてティファの額に触れた。

その硬質な金属で覆われた長く尖った爪の先はちょうどティファのこめかみ辺りを突き刺す。ティファはそこに神経が集中するのを感じた。

い、痛いわ、ヴィンセント

「…微熱のようだ」

やはりな、と呟くヴィンセントはこめかみを摩るティファを尻目にユフィと頷き合う。

「く、クラウドは?!クラウドは知ってんの?!ちょ、アイツ何やってんだよこんな時にッ」

「クラウドはお仕事だけど…何?何の話?」

見えない話題にきょとんと見上げるティファの肩をユフィは引っ掴んだ。

「ああもう!あんな頼りにならないヤツのことはいい!このユフィちゃんに任せなさい!!…で?何すればいいのさヴィン!」

任せておけと言っておいての言動である。

ヴィンセントはまたその瞳を遠くに遣った。

「…吐き気には酸味のある飲み物が良いと言っていたな」

「れ、レモン!あるよある!アタシさっきそこの八百屋で…」

ティファの肩から手を離すとユフィはその脇に放っておいた自分の荷物をごそごそと探り出した。

「え?吐き気って…それはもう大、丈……ううっ

再度口元を片手で覆ったティファはごめんなさい、とまた猛ダッシュで洗面所へと駆け込む。

「ティ、ティファぁ…」

なんとも情けない顔でその後姿を見送ったユフィは何やら彼女が手をつっこんでいた荷物を黙して見つめているヴィンセントの首に飛び掛りざまヘッドロックをかました。

こ、このやろう!!どうすればいいんだよぅ!なあ、どうすればっ」

取り乱しは絶好調だ。

「……ユフィ」

「あ?」

ゆっくりと持ち上げた腕でユフィの首根っこを掴んだヴィンセントはへばりつく忍者娘を自分から引き剥がすとそのまま目の前に移動させる。

「…試してみた方が良いのかもしれんな」

項垂れるユフィとその背後で視界に映る荷物を順番に見遣った。

「試す…?」

片腕に吊るされたままだらりとぶら下がっていたユフィは目を見開く。

「…あ!知ってる!!アレだろ?医者に行かなくても判るっつー、試薬!!そ、そっか、ティファも気付いてないみたいだったもんね」

「……」

ヴィンセントは首を傾げた。

「そうだ、そうだよ!まずはそれで確かめて…さすがヴィン伊達に年食ってないね!ルクレツィア万歳!!アタシ買って来る!」

身体を捻って回転させると襟首を摘まんでいた手を振り解き外に飛び出そうとするユフィに声を掛ける。

「…出掛けるのか?」

「ティファが心配だから出来ればアンタに行って貰いたいとこだけど、どーせ電話屋ぐらいしか知らないんだろ?アタシが行った方が絶対早い!」

失敬な言動であるが、ヴィンセントは据え付けられた座席に放られていたユフィの荷物を静かに拾い上げた。

「…いや、ならば都合がいい。この荷物も持って行け

少々不可解な顔をしたユフィは差し出された荷物を奪い取るとティファのこと頼んだよ!と疾風のように消えた。

ヴィンセントはユフィの飛び出していった戸口を見つめるとゆっくりとその両腕を組み、物音のした洗面所の方を見遣る。

「はぁ…何だったのかしらあのにおい…あら?ユフィは?」

「………」

夕暮れ時のやわらかな風が開け放たれた扉から清々しく、黙り込むヴィンセントの赤いマントとティファの長い髪を揺らして通り抜けていった…。






遥か視界の先にミッドガルの街影が霞むいつもの場所でクラウドは携帯電話を取り出すと着信があったことを示す表示に気付く。

それがユフィからのものだと確認した彼は ふん、とポケットに捻じ込もうとして遠くから聞こえてくるエンジン音に顔を上げた。

「よお、クラウドさん!」

小型のトラックから顔を出して声を掛けるのは最近エッジの近隣に出来た小さな村の住人。

村に必要な物資をエッジで調達する為に、ご自慢の愛車で定期的にこの道を行き来しているこのオヤジはセブンスへブンの常連でもある。

「聞いたよ、子供が生まれるんだって?」

軽い会釈で済ませようとしていたクラウドはその言葉に古典的ではあるが「?」というマークを頭の上に乗せた。

「…誰にだ?」

きょとんとした表情のクラウドにオヤジはわはは、と笑うと続ける。

「ティファちゃんに決まってるだろ」

他に誰が居るってんだ、と細めた目はクラウドの足元にころりと転がった携帯電話を追った。

が、それも一瞬、すぐ目の前に迫った蒼く光る鋭い双眼にひっと甲高い声を上げる。

「どういうことだ…」

「え?!いや、俺もちょろっと聞きかじっただけだから…く、詳しくは…げふごふ

クラウドは何事か考えるようにその魔晄色の瞳を彷徨わせるとオヤジの首元を締め上げていたその手を離した。

「ほ、ほらあのウータイの娘さん…あの娘が街でえらい大騒ぎしてて…クラウドさん?」

放心していたクラウドはその呼びかけに我を取り戻すと遠く霞むミッドガルとフェンリルの脇に落ちている携帯と何やらはあはあと苦しそうにしているオヤジの顔を

順番に見遣ってから、弾かれたようにバイクに飛び乗った。

爆音と共にあっという間に遠ざかる黒い塊を見つめたオヤジは自分の首を摩りながら呟く。

「その辺の魔物よりおっかねぇ…」





街の入り口に辿りついたクラウドはいつものようにごった返す人込みの広場を見つめるとフェンリルから降車し、その重厚な車体を

まるで自転車でも押すかのように駆け抜けた。

乗っていると轢いてしまいそうだ

「お、クラウドさんおめでとう!なんで黙ってたんだよ水くせぇな」

本当になんで黙ってたんだ

「生まれるんだって?いや、全然気付かなかったよ」

俺だって気付かなかった


通りがかる人に口々に賞賛の言葉を掛けられ、目の端に自分の店の前で地面に頭を擦り付けるジョニーが映ったがそれは無視した。

「おいおい、生まれたんだって?男の子だって言うじゃないか」

な、何?!

「あら女の子よ」

どっちだ

「双子だって聞いたぞ」

俺は聞いてない


噂とは凄いものである。

「最近の妊婦さんはあんまりお腹が目立たないって言うからねぇ。ホント気付かなかったわ」


クラウドは押していたフェンリルを手放すと走り出した。




男か、女か!

店の扉を蹴破る勢いで飛び込んだクラウドは、あちゃー、と頭を抱え込むユフィと静かに振り返るヴィンセント、そしてその間で真っ赤に頬を染めて困ったように見つめ返す

ティファの姿を目にした。

「…双子なのか…?


初秋を思わせる涼やかな風がどこかの家の軒先に吊るされた風鈴をちりーんと掠めた。





「う、噂はアタシが何とかしてくから…その、ゴメン」

店の前。ティファは神妙に眉間の前で両手を合わせたユフィと、その隣で「すまない」と呟くヴィンセントにも微笑んだ。

「いろいろ心配してくれたのは…嬉しかったわ、ありがとう」

「あ、お詫びと言っちゃなんだけどサ、これ置いていこうか」

名案とばかりに例の高級品を取り出そうとするユフィにそれだけはと慌てて制する。

大体、アンタが…と食い下がりながら夕闇に小さくなっていく二人の後姿を見送ると、ティファは両手を腰に当ててふう、と溜息を吐いた。





「あの…ごめんね?」

カウンターの隅で突っ伏したままぴくりとも動かなかったクラウドが差し出された小さなグラスをその魔晄色の瞳に映す。

「…ティファが謝る事じゃない。俺も…悪かった」

依然そのまま動こうとしないクラウドにティファもううん、とかぶりを振った。

「クラウドが謝る事も無い、わ…でも」

ちょっと嬉しかったな、と呟き頬を染めて俯く。

酒の注がれたグラスを見つめていたクラウドはようやくむくりとその身体を起こした。

「…俺さ、」

下ごしらえの済んでいる夕飯の食材を取り出したティファは ん?と顔を上げた。

「あの噂を聞いた時、想像したんだ」

「…想像?」

「俺と…ティファの、子供」


シドの家で見た、生まれたばかりの赤ん坊は顔こそ覚えてはいないがそのイメージは鮮烈なもの。

壊れそうな、それでいて生命力に溢れた小さな命。

まるで呼びかけるように伸ばされた、小さな小さな指先。


「頭の中がそれで一杯になって…」

そこまで言ってクラウドはくく、と自嘲気味に笑った。

「…俺も相当いい加減だな」

「クラウド…?」

ティファはカウンターから出るとクラウドの隣のスツールに腰掛ける。

グラスを見つめたままだったクラウドがゆっくりと首を傾げるティファの紅茶色の瞳を見据えた。

「まだ…大事なことを、ティファに伝えてもいないって言うのに」

「…え?」

不思議な色合いを放つその瞳が真摯にティファを射抜き、どくん、と跳ねる心臓を押さえようとした左手をとられる。

彼の視線はその長い指先がゆっくりとなぞる薬指に落とされた。

「あ…」

「…ティファ、俺…」


「「ただいまー!!」」

からんからん、とドアベルを鳴らして遊びから帰ったデンゼルとマリンは頬を真っ赤に染めて立ち上がったティファにおかえり、と迎えられる。

カウンターの席で何やら片手で目元を覆い項垂れるクラウドに気付くと、デンゼルが声を大にした。

「なあ、クラウド!向こうの広場にバイク転がってたけどあれフェンリルだろ?どうしたの?」

「え?…あ」

そうだった、とスツールから降りたクラウドは少し照れくさそうに頭を掻くと後でな、とティファに耳打ちする。

「バイク取りに行くの?俺も行く!」

「あ、私も!」

子供たちと手を繋いだクラウドの後姿を扉が閉まるまでぼんやりと見つめていたティファはつい今しがたまで彼に握られていた左手を心音が高鳴る胸の前で

きゅっと握り締めた。

ぼうっとした思考で何気なく見渡した店内。

卓席のテーブルに置かれたままになっていた先程ユフィが買ってきた「妊娠判定試薬」に気付き、慌てて拾い上げた。

「や、やだ……もう」

熱い頬のまま、ふふと自然に出た笑みをしばししてはた、と留める。

「………」

店の壁にかけてあるカレンダーに目を遣ったティファはいっときその場で首を傾げ、それから腕を組むとうろうろと歩き出した。

ぴた、と足を止めると手にした試薬を見つめる。

「…まさか、ね」










十数分後、子供たちと笑いながら店の扉を開けたクラウドはまたもや困ったように、それでも嬉しそうに頬を染めるティファと対面する事になる。









FIN



…かもね!(ぇ
23000HITを踏み倒してくださったるしあさん(scrap edge)のリクエストです。
内容は「ティファ、もしかして妊娠???!!!」というものでございました。
さあ、どうなのでしょう(笑)
ヴィンセントがここまで出張るのは我家では初めてですね。(なのにこの扱い;)
妊娠ネタは「Blessing」で扱いましたが、これはまた別のお話。
実の所どうなのかというのも皆さんのご想像にお任せ、ということで…げへへ。
るしあさん、遅くなりましたがどうぞお納めくださいませ〜v
フミフミとリクエスト、ありがとうございました☆

しかしリクものでこんな…いいんでしょうか。(やっぱ遅いよ…)


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