<SS はいど あんど しーく>



はいど あんど しーく



「ティファ、どこだ」


高い位置にある陽の光のおかげで、唯一灯りを点けずとも明るく見える真昼の静まり返ったセブンスヘブン店内。

軋む音でゆっくりと閉まった扉を尻目につかつかと大股でそれほど広くないホールを横切る青年。

柔らかな光彩を放つかのような逆立つ金髪を歩調に合わせて揺らしながら

階段のとばくちで足を止めずにちらりとカウンター内にその蒼い双眼を流す。

整った薄い唇が先刻店内に足を踏み入れるなり呼ばわった名の人物の姿がそこに無いことを確認すると

クラウドは装備を外しながら階上へと向かう。


「ティファ」


寝室の扉を開けて部屋の中ほどまで進んだその足はサイドボードに置かれたつい今しがたまで彼女の腕に抱かれていた買い物袋を視認すると止まった。

小さな息を吐くと外した装備をその横にまとめる。

振り返りざまにぐるりと部屋の中に視線を走らせ、やはり何の気配も感じられないことを確認した。

子供部屋、風呂場、自分の仕事部屋と順に足を運んだクラウドは腕組みすると片手ですっきりと尖ったその顎をつまみ

少々の間思案していたが、またゆっくりとその歩みを進める。


「…ここか」


風呂場同様、他の部屋よりも幾分小さめに作られたその扉を見詰めると、きっと鍵がかかっているだろう取っ手には触れず、その傍らの壁に手をついた。


「ティファ?」


返事は無い。

しかし、扉の内側で身動ぎする気配を感じ取る。鍵をかけた上にそのノブを押さえつけているのだろう。壊すとでも思っているのだろうか。

クラウドはまた一つため息を吐いた。


「なあ、聞いてくれ」


やはり返事は無い。


「…ティファ、ちゃんと話がしたいんだが………長くなりそうか?」


途端、ばん!と勢いよく開いた扉を上手に避けたクラウドはトイレから飛び出してきた真っ赤な頬のティファに詰め寄られた。


「し、してないわよ!ほら!蓋だって上げてないんだか、ら……」


叫びながらティファは目の前でゆっくりと口端を持ち上げるしたり顔のクラウドに段々とその朱に染まった顔を俯けることになる。

(やられた…)

一歩踏み出されて、詰め寄ったはずのティファは う、と後ず去った。その繰り返しで反対側の壁に後退を阻まれてしまう。

クラウドの大きな手がすかさず顔のすぐ横の壁につかれ横からの逃げ場を遮断された。


「なあ、ティファ。『あのこと』は…」


ティファは熟れたトマトもこれほどではないくらいに完熟し、耳を塞いだ。









「ゴールドソーサーでイベント?」


数日前のティファが電話口に向かって言った言葉に側に居たデンゼルとマリンがきらきらと目を輝かせた。


『そうそう、“お子様限定!1泊2日でゴールドソーサーを遊びつくそう!”…なんかサ、どっかの金持ちが星痕で痛い思いした子供達のためにって貸し切ったんだって』


あるとこにはあるねぇ、と厭味がましく言うユフィにティファは何、何?!と足元に絡みつく二人の子供を制しながら確認した。


「子供たちだけって…どうやって?」

『シドがお迎え役買って出たらしいよ?あのおっさんお祭り好きだからさぁ、めんどくせぇなとか言いながら笑ってたよ。キしょいっつーの!』


悪態を吐きながらも電話口の向こうでは笑みが浮かんでいるであろうユフィの顔を思い浮かべてティファは期待に満ちた表情で見上げる

デンゼルとマリンにも微笑んだ。

しかし。母親としての不安が無いわけではない。


「子供たちだけで大丈夫かしら…」

『ああ、なんかちゃんと手配してあるって。親同伴もいいらしいけど、そっちは二人とも大丈夫だろ?…つーか』


その方がいいんじゃないの、と薄笑い気味に呟かれて、一瞬その言葉を思案してから頬にさっと朱が奔る。


「も、もう!ユフィ!?」

『はいはいユフィちゃんですよ!あーもう、期待通りの反応ありがと!電話で残〜念。そうそう、クラウドも喜んでたよ』


ひひひ、と含み笑いする彼女の顔まで想像できる。が、突然たった今脳裏に過ぎったばかりの青年の名を耳にして驚いた。


「え?クラウドがどうして…」

『いやサ、今日そっちに配るそのチラシ預けたんだけど文句一つ言わないでやんの。今頃にっこにこしながらばら撒いてんじゃないの〜?』


なんとなくそれも容易に想像できてしまったティファは押し黙ることしか出来なかった…。





「クラウド!ゴールドソーサーって遊園地なんだろ?」


そして本日、シドが正午に迎えに来るという話で早起きしたクラウドが空いた時間で子供達の洋服を新調する提案を出し、更に喜んだ子供たちを伴って

エッジの目抜き通りに出来たデパートへと足を運んだ一行。

真新しい洋服に身を包んだデンゼルはティファに服の裾を直してもらいながら、何やら店の従業員に呼び止められ話をしていたクラウドがやってくると

もうかれこれ何度目かの同じ質問を投げかけた。


「デンゼルったらそればっかり!」


淡いオレンジのワンピースに終始ご満悦のマリンが返すとデンゼルはへへ、と歯を見せて笑った。

クラウドはそんな二人を交互に見て微笑んでからせっせと荷物を詰めなおすティファに声をかけた。


「ティファ、こんなの貰ったぞ。サービスだそうだ。何か買ったのか?」


薄いセロファンで可愛くラッピングされた小さな包みにはリボンがついたレース使いの布が折りたたまれているのが見える。


「え?あ、うん。ちょっと下着を…」


ティファの胸のサイズはちょっとアレだ。(どれだ)

なので、当然のようにブラのサイズも結構アレなのだ。そういうレアな下着と言うものはそうそう安売りはしない。

数をこなせる物ではないので商売側としては当然の措置ではある。

しかしティファは見つけてしまったのだ。ワゴンセールの下着の山の中に、自分のサイズのそれを。

思わず手が出てしまった。それだけのことなのだが。


「そ、そうか」


何やら微かに頬を染めたクラウドがぷいとそっぽを向いたのを少し訝しげに見詰めたティファは あ、と声を漏らした。


「や、やだ…別に…」


自然、顔が熱くなってくる。

(そういうつもりじゃ…)


「…は、ハンカチかしらね、可愛い」


こちらを見ようとしないクラウドを諦めて、ティファはそれとなく話を摩り替え、そのハンカチを包みのままポケットに押し込んだ。


「さあ、そろそろシドが着く頃だ。行くぞ、デンゼル、マリン」


荷物を持ち上げたクラウドにデンゼルとマリンが続く。


「楽しみだなぁ」

「ああ、俺も楽しみだ」


不思議そうに振り返る子供たちと共に前を歩くクラウドにティファは長い長い溜め息を吐いた。





「じゃあな!」


デンゼルとマリン、そしてそのイベントに参加する子供たちを乗せた艇は次の街へ急ぐということであっけなく離陸した。

ティファは見えないかもしれないと思ったが、手を振り続けた。その艇影が見えなくなると、急に寂しさが込み上げる。

考えてみれば、あの二人が自分の元から離れるのはこれが初めてかもしれない。

微かな喪失感はその胸に小さな穴をぽっかりと開けたようだった。


「…寂しいか?」


見透かされてどきりと隣に立つクラウドを見詰める。


「…そ」

「泣いてる」


彼の長い指が目元を拭った。確かに少し視界が滲んでいる。


「…クラウドがいるから平気」


言ってからティファはちょっと恥ずかしくなって俯いた。

自分の吐き出した言葉でクラウドがまじまじとこちらを見詰めているのが判る。

そういえば、と先ほどポケットに仕舞ったハンカチを思い出した。


「…ちょうどいいから、これ使っちゃおうかな」


照れ隠しに笑って見せてそのラッピングを解き、中の布切れを取り出す。が。

二人の目の前にはらりと広がったもの。

それは可愛い小さなリボンとレースであしらわれ、両脇にヒモの付いた…いわゆるヒモパンであった。

ティファの顔から笑顔が消えた。クラウドに至っては自失寸前だった。

ハンカチだと思っていたものが下着だった、という事が問題なのではない。

今目の前で緩い風にひらひらとそよぐそれは、形状は元より色、デザイン共に二人の脳裏にとある事件を思い起こさせるに事足りる程、

「あれ」に酷似していたのだ。


「……いや…」


ぼそりと呟いたティファにクラウドも失いかけていた意識を取り戻す。


「…ティ」

「いやーーーーーっ!!!!」


ティファは「それ」を放り出すと買い物袋を抱えて走りだした。


「ティファ!」


クラウドは突然のことに一瞬呆然とその後姿を見送っていたが、我に返ると落ちている「モノ」を拾い上げてポケットに捻じ込むと

ちょっと懐かしい気がするのを押し留め、彼女を追って走り出した…。









「…まだちゃんと謝って無かったよな」

耳を塞いでいるティファの両手をつかみ、壁に押し付けることでやはり逃げ道を断つと、クラウドはその不思議な虹彩を持つ蒼い瞳を真っ直ぐにティファに向ける。


「悪かった」


そのひとつも悪気の無さそうな言い方はあの時タンスに触れたかどうかを問いただした時のそれと全く変わらないものだ。


「…悪いなんて、思ってないでしょ」

「…………」


出来れば胸の奥に封印しておきたかった事象を無残にも躊躇無く引き摺り出されてしまったティファはその時に思った言葉をそのまま舌にのせた。

しばし押し黙ったクラウドは少しその瞳を伏せる。


「…言い訳は出来ない」


そう一言いうと拘束していたティファの両腕を開放し、また 恥ずかしさからか潤んだ彼女の瞳を真っ直ぐに見詰めた。

ティファはその真摯な視線に全てを見透かされそうで身動ぎしたが、その瞳は逸らせない。


「何て言ったらいいのか…。俺ははっきり言って他人になんか興味はなかった。でも…ティファが関わると違った」


やっぱり言い訳だな、と呟く。


「それだけ、…好きだったんだ」


照れもせずにそういうことを…と思ったが、ティファはふとクラウドの胸に片手をそっと押し当てた。


「…………」

「…………」


掌に伝わる鼓動。その速さに、そして微かに頬を染めて視線を外すクラウドにティファはぷ、と吹き出した。


「笑うな。これでも焦ってるんだ」

「…ご、ごめんなさ…だって…」


くすくすと笑い続けるティファにクラウドもやっと表情を崩す。


「若気の至り…これで水に流してくれると助かる」


トイレの前だ。ティファは更に腹を抱えて笑った。

クラウドは はー…、と長めの溜め息を吐くと笑いすぎだ、とティファの顎を指で持ち上げ唇を重ねた。


「…もう、怒ってないか?」

「…怒ってたわけじゃ…」


離れた僅かな隙間で確認されたティファは言いかけてやめた。

怒っていた訳ではなかった。あの事実が突きつけられた時は確かに驚いたが…少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しくもあったのだ。(犯罪だぞティファ)

そんな自分の僅かなはしたない考えがひどく羞恥を誘った。決して思い出すまいと心に誓ったのだ。

でもそれは教えてあげない事にした。

この状態でそんな事を口走ったら…何をされるか判ったものではない。

しかし押し黙った彼女を放っておくクラウドではない。


「何だ?」

「…何でもない」


ぷいと染まった頬を背けるとクラウドはほう、とその綺麗な眉を片方だけ上げた。


「なら、自分で探す」


ひょいと抱き上げられ、ティファは慌てた。


「わ…ちょっ…クラウド?!」

「ティファを見つけるのは得意なんだ」


もちろん、とクラウドはティファを抱いたまま器用にポケットから「それ」を取り出す。


「着けてくれるんだろ?」

「なっ…」

「俺が着けてやろうか」

「そ…」

「すぐ脱がすけどな」







結局こうなるんだわ、と溜め息は深くなるばかりのティファであった。


隠し通せるだろうか。


心配。





FIN


DSさん、15000HITフミフミ、ありがとうございましたー!!!
リクは「THEウルフクラウド」で(笑)
我家はウルフの徘徊率が非常に高いので書きやすかったのですが…ついにアレを持ち出してしまいました(ゴフ)
あの時ティファにタンスをいじったか聞かれて飄々と肯定した我家のクラウド氏。
その後そのことにはひとつも触れませんで…いいのか。
あちらこちらでこのネタを扱ってらっしゃいますが、柊も漏れなく大好きです(ぅぉ)

リクなのに趣味に走ってごめんなさい><
DSさん!貰ってやってくださいね!!


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