<SS Fluster>




「はい、ストライフ=デリバリーサービスです。当社は……ユフィ?どうしたの?こっちに電話なんて」

ティファはクラウドの事務机の椅子を引くと腰を下ろし、机上の家族写真を手にとって口元を緩めた。




Fluster





『アイツアタシの電話なんか出やしないんだよ!…ったく腹立つったら』

「…うーん、、ほ、ほら、気が付かなかったんじゃないかな?バイクに乗ってると聞こえないし…」

『あーあー、いいよいいよ。ティファからの電話なら何やってたってワンコールで出るんだろどーせ』

「そ、そんなこと…」


図星だ。ティファは頬を赤らめた。

電話口からため息が聞こえる。


『…まあ、いいか。ねえ、最近どうよ?ヤツと仲良く…してそうだな…マリンは何を心配して…』


ぼそぼそと呟くユフィにティファは敏感に反応した。


「マリン…?マリンがどうかしたの?」


ユフィは少し息を呑んで、しまった、と小声で呟いた。

「ユフィ?」


『あー……いやサ、こないだマリンからメール貰って。あんたらがなんか様子がおかしいってさ。心当たり、ある?』


ティファはちょっと考えて、あ、と声を漏らした。


『…あるんだ?』


「え…?あ、…う、うん」


マリンはきっと私たちが「あの事」でヘンにギクシャクしていることに気が付いているんだ。

ティファはまた頬が熱くなってくるのを感じた。あんな事で。何ということだ。


『…言う?聞くだけ聞くけど』

「…お酒が…」

『…酒?!』


ぼんやりしていたティファはつい口が滑ったことに気付き、慌てて噤んだ。


『な、何?アイツ酒飲んで暴れでもしたの?!』


暴れたのはティファの方だ。


「ち、違うの。大丈夫、大したことじゃないから、心配しないで?…マリンにもそう言っておくわ」

『そう?…まあ、ティファがそう言うんなら…あ、でももう荷物バレットに預けちゃったんだよね』

「荷物?」


ひひ、と何やら薄気味の悪い笑い声が聞こえた気がしてティファは少し不安になった。


「な、何よ荷物って」

『まあ、届いてからのお楽しみ!子供たちのお土産も入ってるからサ、とにかくクラウドに伝えてよ!頼んだからね〜』


最後は一方的に切られてしまった。

荷物の中身も気になったが、マリンに心配を掛けていた事にティファは心を痛めた。


最近毎朝、店の酒の在庫を確認するクラウドとちょっとした言い合いをしている。

言い合いといっても、ただティファが「ダメ」と一言いうだけで、クラウドに至っては肩を落として出て行くだけだ。

そのちょっとした雰囲気の違いをマリンは悟っていたのだろうか。


マリンは敏感な子だ。特に大人の変化には。

それがどういった大人の事情であれ、子供には関係ないことは確かだ。

何より私たちには「前科」がある。

「あんな事」の為に、あの小さな胸をどんなにか痛めているだろう。

はあ、とため息を吐きつつ、携帯でクラウドの番号を呼び出した。


それはやはりワンコールも待たないうちに繋がる…。






「よお!クラウド!!久しぶりだな!!」


浅黒い巨大な肉塊が押し寄せてきて、ゴーグルを外したクラウドは少々げんなりした。

相変わらず無駄にデカいな、と思ったが言葉にはしない。


「…俺も大人になったな」

「なんだそりゃ」

「いや、こっちの話だ。…荷物は?」


そっけねぇな、と舌打ちするバレットが箱を取り出す。


「こっちがユフィの頼まれモンだ。代金が…ああ?!…あンの野郎…!」


一緒に綴じてあった封筒から出てきたのは「着払い」と書かれた紙切れ一枚である。

太い眉を吊り上げて憤慨するバレットに、くくっと笑うクラウドは構わない、と呟いた。


「どうせ子供達への土産物だろう。そっちのも持って帰る。配達とは違うからな」


バレットが用意したのだろう、もう一つの箱を顎で示したクラウドを巨漢はへへっと見返した。


「あとな、これなんだが…」



差し出された細長い箱に、クラウドは自分の中のバレットの格付け位置を一段上昇させる事になった。(らしい)






「おかえり!…うわ、クラウドびしょ濡れ!!」


突然降られた雨に濡れ鼠となったクラウドはパジャマを着込んだデンゼルとマリンにただいま、と微笑むと土産物を手渡した。


「おかえりなさい、クラウド…酷い雨だったね。お風呂出来てるから」


清潔なタオルを手渡すティファの頬にも素早く軽いただいまをする。


「もう看板か?早いな」


ほんのりと染まった頬に手を当てたティファはうん、と頷く。


「こんな雨じゃお客さんも出て来られないだろうと思って、早仕舞いしちゃった」


と微笑んだ。


「クラウド!開けていい?!」


クラウドが頷くと、きゃあきゃあと子供たちが土産物に群がる。


「クラウド、風邪引いちゃうわ。早くお風呂に…」


クラウドは毛先からぽたぽたと滴の落ちる頭をがしがしとタオルで拭いながら、ティファの目の前に細長い箱を突きつけた。

酒場を経営している女主はそれが何であるかはすぐに見当がつく。


「も…もう、…」


更に頬を朱に染めるティファをニヤリと見詰める。


「…俺が買ったんじゃない。バレットからの土産だからな。珍しい酒だそうだ」

後で呑もう、と染まった頬に掠めるように耳元で付け加えた。


「………」

真っ赤になって黙り込むティファにふふん、と鼻をならすと


「風呂にいってくる」


と階段を上がっていった。

上がり際に子供達に向かって「早く寝ろよ」と声をかけるのも忘れなかったようだ。




「ティファ!見て見て!」


デンゼルの声にはっと我を取り戻したティファは、ぺちぺちと自分の熱い頬を叩くと喜び勇む子供たちの所へと向かった。


「ほら、なんか見たこと無いお菓子!すげぇ!こっちはクラウドとティファに、だって!」


歓声を上げるデンゼルの隣でマリンは少しもじもじとティファの顔を見詰めた。

大方、ユフィから連絡でもあったのだろう。

ティファはマリンの頭を優しく撫でて、「ありがとう、マリン」と呟いた。

ぱあ、っと花が咲くように表情を崩した娘にこちらも思わず破顔する。


養父からの贈り物を嬉しそうに開ける姿を見遣りながら、そういえば、とユフィが送ってよこした箱を覗き込んだ。

一冊の本と、何やら中身の見えない瓶が並んでいる。

そのハードカバーの本の題名に気を取られた。


「秘奥義」


格闘家としての血が騒いだ。

ウータイは確か、「カラテ」とかいう格闘スタイルがあったはずだ。

分厚いそれを引っ張り出すと、椅子に腰掛けて本のタイトルを読み上げる。


「秘奥義 四十八手 裏表…?…組み手の類かしら」


興味深く真ん中辺りをぱかりと開いて……硬直した。

小刻みに震える手によりハードカバーの背表紙がみし、と小さな音を立てたのに気付き、すぐさま両手でばたんと閉じる。

目の前がちかちかした。


「ティファ、これ何?」


気付くと自分たちの土産物を堪能したデンゼルとマリンが箱から黒い瓶を取り出すところだった。

ティファはきつく閉じ合わせていた本を思わず尻の下に隠すと出来るだけ普段通りの声色を作る。


「な、何かしらね。調味料かしら」

「亀みたいな絵が描いてあるよ?…えーと何々…すっぽん?このカメ、すっぽんって言うみたい」

「そ、そう…すっぽん…」


ティファは聞いたことも無い動物の名前など気にする余裕は無かった。上の空で応える。


「デンゼル、これ何て書いてあるの?」

「ん?どれ?…えっと…ジ、ジヨウキョウソウ?、ビョウチュウビョウゴ、…んん、と、ティファ、これ」


ぼんやりしていると突然目の前に黒い瓶のラベルが飛び込んできた。


「え?ど、どれ?」


ここ、何て?とデンゼルが指差す場所をとにかく目に映し、口を開きかける。


「せ…」


  精力増強

ティファは開いた口が塞がらなくなった。

ぽかん、と黙り込んでしまったティファにデンゼルが、ティファにも読めないか、と首を捻ってうなった。

するとぽん、と一つ手を叩いてキラキラと目を輝かせる。


「そうだ!クラウドに聞いてこよう!」


ティファは気が遠くなった。


「そ、それは…」


無意識の意識が最大の警告を放つ。


待って、お願い。


意味もね!と勇んで階段へ向かおうとする二人の腕をなんとか引っ掴むことに成功した。


「く、クラウドは疲れてるから、ゆっくりお風呂に入れてあげよう?それはもう明日に…」


言いかけ、明日も大波乱の予感がして眩暈がする。


「ええー?気になる!」


そして追い討ちはかかる。


「何を騒いでるんだ?」


いつもは耳に心地良い最愛の彼の声が何だか遥か遠くのほうから聞こえるような錯覚に陥った。。








ティファは俯いたまま目の前に置かれた自らの手で綺麗に磨かれたグラスをぼんやりと見詰める。

子供たちを寝かしつけてきたクラウドは隣でしきりに先程の「黒い瓶」を手にとって眺めていたが、

ふとティファに向き直ると酒瓶をもう一方の手にとってその薄い唇を開いた。


「どっちにする?」


こんな嬉しそうなクラウドを、今まで見たことは無いとティファは思った。









数時間後。


テーブルに突っ伏して大人しくなったのはクラウドである。

ティファは両手で持ったグラスの酒をちろりと舐めると呟く。


「免疫…?」


静かになった店内に突然携帯電話のメール着信音が響いた。

慌てて取り出して画面を表示させる。ユフィからだ。


『もう届いた?ウータイ版マンネリ解消グッズ!他にもいろいろあるからいつでも言ってよね!気苦労の多いユフィちゃんでした♪』


「ま、マンネリ…」


ティファは頬が熱く感じるのは酒だけの所為ではないと自覚する。

画面をスクロールさせた先にもう一言。


『拒む女は嫌われる!…ま、アイツに限ってんなこた世界がひっくり返っても無いけどね!』


事情を知らないはずのユフィの文字はやけにティファの胸に残る。


「拒んでなんか…」


ティファは熱くなった頬を押さえつつ隣で寝息を立てるクラウドを見遣った。


「私だって…い、嫌なわけじゃないのよ…?」


そっと薄暗い光に映える金髪を撫でる。


「だって…恥ずかしいじゃない…」


「そうか」


「そうよ」


ふいに返って来た言葉に素直に返答してから驚いてクラウドの顔を見た。


「嫌なわけじゃない、か」


ゆっくりと開かれた蒼い瞳が甘く揺れている。


「え、ええ?!クラウド?!」


引っ込めようとした手をすかさず捕られ、ティファは己の学習機能の低さに頭を抱えたくなった。


「そうか…」


体を起こしたクラウドは手にしたティファのそれに軽くキスを落とす。


「俺が目を瞑っていれば問題ないか?」


「な……」

立ち上がろうとした腰を難なく捕らわれてしまった。


「ティファが目を瞑るという方法もある」


「ば、ばかクラウド…」


近づいてくる整った唇に、そんな言葉しか出てこない自分がもどかしい。




「…さっきティファが隠した本も上で一緒に読もうか」

僅かに離れた唇の隙間で囁かれた言葉は朦朧とした思考に更に追い討ちをかける。





ああ、もう何もかもお見通し。


心の中で両手を挙げたティファはもうその首に腕を絡めるくらいしかできないのだ。








観念した熱いため息を耳にしながら、


これからはユフィの留守電くらいは聞いてやろうと考えるクラウドであった。





FIN



ウータイ万歳。
またクラウドがタヌキやってます。。
テハを知るにはこの手が一番です(ぉぃ)

「酒」はこれで一応ピリオドを。後は裏ですね。こっそり足掛りだったり(ぇ
こんなんばっかでごめんなさい。
逝って来ます。


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