<SS Ephemeral>






Ephemeral




「え、じゃあこれクラウドが作ったの!?」

「まあな」


子供二人と囲む朝食。

ずらりと食卓に並んだいつものメニューにデンゼルが驚きの声を上げた。

クラウドは目を輝かせる息子に一言だけ応えると濃い目のコーヒーに口をつける。

スープは昨日ティファが出かける前に仕込んでいったもの。

パンに至ってはやはり冷蔵室で寝かせてあった生地をオーブンに放り込んだだけだ。

彼が作ったといえば野菜をちぎってサラダに、卵を焼いた…くらいのものだが、なにやら羨望の眼差しを向けるデンゼルにそこまで説明する必要性はきっと無い。


「ティファ、きっと昨夜のこと覚えてないね」


くすくすと可笑しそうに笑いながらのマリンの言葉にクラウドは右手に持ったコーヒーカップが小さな亀裂音を立てたことに少し焦った。

何の音?と辺りを見回すデンゼルを横目に持ち前の乱れぬ表情でそっとそれを食卓に戻す。握り潰す所だった。


「ティファが酔って潰れちゃうなんて、初めて。結構強いはずなのに…ね、クラウド?」


なにやらぼんやりと考え事をしていたクラウドは名前を呼ばれて気が付いたように視線を娘に戻す。


「…ん?ああ、そうだな。俺もあんなティファは初めてだ」

「ええ?どんなだったの?俺も見てみたかった!」


日頃慎ましい母親なぶんその様子が気になる子供たちは興味津々と、腕を組み顎を抓んで視線を遠くに飛ばすクラウドが口を開くのを待った。


「…あんなに入るとは思わなかったな」


首を傾げるデンゼルとマリンにはたと自分が率直な感想を述べてしまったことに気付いたクラウドは、

まあ、気にするな、と呟いた。

言い淀むクラウドを、母親であるティファの威厳を保とうとしているのだと見て取った純粋な心の持ち主であるマリンは追及を諦めた。

良い子だ。


「ティファは真面目だから、きっと反省してもうお酒は飲まないって言うね」


うふふ、と楽しそうにデンゼルと顔を見合す様を見ながら

それは困る、と心の中で呟く邪なクラウド氏であった。









「うう…」


ティファは枕に沈め込んだ頭を僅かに振って瞬間、襲ってきた激痛に言葉を漏らした。


「い、痛い…」


ここまで酷い頭痛には未だかつてお目にかかったことが無い。

言葉を発して、まだ喉の奥が熱を持っているような感覚に眩暈を覚える。

階下で二人の子供たちが出掛ける挨拶をして駆けてゆく音が聞こえ、視界が滲んだ。


「…母親…失格…」


時計を見遣ったティファは目が潤むのを、それが二日酔いの為か自己嫌悪の為なのか重い頭で量りかねていた。

しかし、いつまでもこうしていても仕方が無い。薬でも何でも飲んで、とにかく起きなければ。

店の準備もある。朝こそ出遅れてしまったが、何とかこの己を苛む後悔の念から立ち上がろうと、

むくりと身を起こしたティファは回転の遅い思考で自分の出で立ちがしっかりしていることに少々不安を感じた。


(パジャマ…)


寝台の周りを見渡しても、脱ぎ散らかした痕跡は残っていない。


そういえば、昨夜はどうやって帰ってきたのだろう。

自分で家の扉を開けた記憶がどうやっても見つけ出せない。

しっかりと上までとまったパジャマのボタンを握り締め、何となく頬を紅潮させた。


『家に着いたぞ』


そんな言葉が、耳に残っている。

彼の腕の中で、その大好きなにおいを吸い込んだ覚えが、ある。


「…………」


熱くなった頬はどやら納まりそうに無い。







「起きてたのか。…具合はどうだ?」


水の入ったグラスと小さな紙包み…きっと薬であろうそれを持ったクラウドが寝室に入ってきたのはそのすぐ後だった。

ティファは火照った頬を隠す術も無く、俯くことで不思議そうに自分を見つめるクラウドの視線から逃れた。


「ティファ…?」

「あ、あの…」


昨夜のことなんだけど、とぼしょぼしょと呟くと、何を思ったのかクラウドの頬が僅かに紅潮し、彼も目を反らした。

その反応にティファはますます頭がぼうっとする。


「ご、ごめんなさい…」


耳まで朱色に染め、俯いたまま上目遣いでちらりとクラウドを見上げた。


「…覚えてるのか?」


彼は意外にも何だか悲しそうな顔をした。







むしろ礼を言いたいぐらいだ。心の中で呟いたクラウドは未だに顔を上げようとしないティファに薬を手渡すと

側にあった椅子を引き寄せて腰を下ろした。

ありがとう、と薬を水で流し込むその小さな唇をじっと見詰める。


「あの…重かったでしょ?」


微動だにしないクラウドがその言葉にぴくり、と整った眉を動かした。


「いや…特にそうは感じなかった」


でも、と萎縮する彼女の何も施してもいないのに艶々と色めく(ような気がする)可愛い唇から目が離せない。


「これからは…気をつけます。もう二度としないわ」

「たまにはいいと思うぞ」


改まって言うティファに、思わず本音が出た。


「でも…私、恥ずかしくて」

「それは俺も同じだ」

「や、やっぱり、…クラウドがしてくれたの?」


赤い頬のまま、今にも泣きそうな瞳で見上げた彼女の言葉は少しだけ不可解に思えた。


「…?まあ、最後は俺が…したことになるだろうな」

「…?み、見ちゃった…?」

「…?そりゃあ…見た、な」


「ああ、もう…信じられない!私ったら何てこと…」


ついに両手で顔を覆ってしまった昨夜のティファとは全く相反する仕草に微笑ましささえ覚えるクラウドは

寝台の、彼女の隣へと移動しつつその両手を掴んで涙に潤んだ瞳を覗き込んだ。


「気に病むことは無い。…俺は嬉しかった」


その言葉にティファがやっと自分たちの会話が微妙にずれていることに気付く。


「…嬉しい…?私を着替えさせることが…?」

「ああ。俺たちはこうやって少しずついろんな経験を重ねて……着替え…?」


今にもその唇を捉えようと迫った、かなりの至近距離でしばし二人の時は止まった。


「私…何かしたの…?」


いつもの光を取り戻した紅い瞳が真っ直ぐにクラウドのそれを見据える。


「何をしたの…?」

「…………気にするな」

クラウド

…クラウドは大人しく彼女の耳に口を寄せた。






「…嘘」






何となく頬が染まるのを気にして顔を背け、うん、と頷く。






「嘘、嘘、
嘘ーーーーー!!!!














その後、禁酒を誓ったティファの意思は何よりも固く、クラウド氏をがっかりさせた事は言うまでもない。









FIN




がっかりだよ、クラウド(笑)
短い、束の間の幸せを一生忘れずにいて欲しいです。(一生か)

それが嫌なら頑張れー!


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