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<SS A foundation>
「ただいま」
底冷えの厳しい深夜。
店の扉を開ければ暖かい空気と、そして花開くような柔らかい笑顔。
「おかえりなさい、クラウド」
嬉しそうに、少し照れたように紡ぎだされる己の名。
この瞬間がたまらないといつも思う。つい先程まで感じていた疲れなど吹き飛ばす威力だ。
「…ただいま」
もう一度少しトーンを上げて言いながら駆け寄ってきたティファの細い腰を抱き寄せる。
柔らかそうな頬を桜色に染めて僅かに身動ろぐ彼女はすぐに大人しく身体を預けた。
A foundation
「…寒かったでしょ?」
「ん」
背中に回された手が剥きだしの肩を温めるように覆う。冷たい、と呟いた。
「だからもう一枚羽織ったほうがいいって言ってるのに」
「そうだな」
この方がティファの温もりをより実感できる。
この言い分はきっと理由にならないと却下されるのがオチなのでそのまま黙った。
「…今年中に帰って来られて良かったね」
腕の中で吐息を漏らしたティファがぼんやりと呟く。
「ああ。…子供たちは?」
時計を見遣ってから今頃になって店内を見渡した。
「さっき眠ったの。朝まで起きてるって随分頑張ってたんだけど」
「そうか」
ふふ、と楽しそうに笑むティファを見つめながらそれは困る、という本音は言葉に出さなかった。
「ね、少し飲むでしょ?それともご飯?」
「…飲もうか」
ティファがいい、というお決まりの本音も出さなかった。
「じゃあ、用意するからお風呂でちゃんと温まってきて」
するりと腕から抜け出す彼女をいくらでも捕獲できるのだが、今は見送る。
「キツイの、頼むよ」
言い残して階段を上がっていく素直なクラウドにそういえば、とちょっと首を傾げるティファであった。
「ティファも飲るだろ?」
軽く飲んだ後、クラウドが済ませた食事の後片付けをしていたティファはぐるりと店内を見渡して、もうすることが無い事を確かめると
うん、と頷いた。
「もうすぐ年越しだし、飲んじゃおうかな」
ちょっとだけ、と小さめのグラスをカウンター越しに酒の瓶を傾けているクラウドに差し出した。
「今年もお疲れ様でした」
「…ティファも」
ふたつのグラスを合わせると澄んだ音が小さく響く。
「いろいろ、あったね」
「そう…だな」
少し遠い目をして酒をあおるクラウドを見つめながらティファも両手に持った自分のグラスを舐めた。
突然クラウドが一人で吹き出す。
「…なあ、覚えてるか?あの時…」
くく、と肩を揺すりながら語りだすとある出来事はすぐにティファの脳裏にも蘇えった。
「や、やだ…あれはクラウドが!」
みるみる頬が熱くなり、悔しくて唇を尖らせればまたくくく、と笑われる。
「それを言うならあの時は…」
「ちょっと待て、それはティファが…」
「クラウドの」
「ティファが」
次々に浮かぶ、楽しかった出来事。
二人の、思い出。
嬉しかった事も、ちょっと切なかった事も。
ひとしきり笑いあった後、ふと静まり返る店内に小さく点けていたラジオがカウントダウンの開始を告げる。
「…終わるね」
「ああ」
幸せだった、と思える一年。
それはきっと、
あなたが側にいてくれたから。
クラウドが空になったグラスをカウンターに置くとおいで、と手招きをした。
「なに…?」
カウンターから出たティファはクラウドが指し示す彼の隣の席に腰掛けようとして、突然伸びてきた腕にその腰を絡めとられる。
「…え、と」
クラウドの膝に座る形となったティファは少し身動ろぐが、しっかりと腰に回された腕に俯いて大人しくなった。
「決めてたんだ」
「…え?」
抱きしめられた耳元で響く優しい声。
「こうやって…締めようって」
言葉の意味を理解する間も与えられず、目の前に迫った綺麗な蒼瞳に呼吸を止めた。
カウントダウンの盛り上がりが遠くに聞こえていた。
熱い吐息を交換してから知ってるか?と問われ、ぼんやりと二つの蒼い空を見上げる。
「年の初めにした事が、その一年の基礎になるんだ」
口端を上げたクラウドがもう一度軽く口付けた。
「で、初キス」
「…もう」
あけましておめでとうでしょ?と熱い頬を隠すようにその胸に身体を預けて呟けばそのように返ってくる言葉。
「今年もずっと…こうしていよう」
続けられた言葉にクラウドを仰げば優しい微笑み。
「きっと…また楽しい一年になる」
ティファと一緒だからな
「…うん」
なんだか彼の綺麗な顔が滲んで見えて、慌ててその首に腕を絡め、肩口に頬を寄せた。
背中にきつく回される力強い腕に、零れそうになる滴をその衣服にそっと含ませる。
「そうだね…」
大好きだよ、クラウド
騒がしくなったラジオの声が耳に戻ってくる頃、黙って抱きとめてくれていたクラウドが小さく息を吐きながら呟く。
「…ずっとこうしていようなんて言っといて何だが」
「……」
顔を上げたティファは何やら神妙に見下ろしてくるクラウドの揺らめく魔晄色の瞳に何となくその先が読めてしまう。
「この続きも大事だと思うんだ」
「…ちょ」
こっそり「逃げ」体勢だったティファはそのままくるりと抱き上げられてバランスを崩し、思わずその衣服にしがみ付いた。
ふふん、と口端の上がるクラウドにそれも計算の上だと思うとなんだか悔しい。
「で、姫初め」
「…ユフィね」
ウータイ臭い聞きなれない言葉にまたヘンな事吹き込まれたんだわ、と溜め息を吐きたくなったが、
彼がその為に急いで帰ってきたのかと思うと可笑しくて口元が緩む。
ただいまのキスも我慢してたのかしら。
「…今年の終わりに言ってやるんだから」
ゆっくりと、それでも勇んで階段を上がるクラウドの肩口にまた頬を寄せながら、今年第一号だわと早くも年末に思いを馳せた。
「…これもウータイ情報だが」
器用に寝室の扉を開けたクラウドが呟く。
「正月の一番初めの水は「若水」と言って、男性が使うものらしい。だから明日の朝食は任せろ」
「え…?それはいいよ、そんな事させられない」
それだけは譲れないと強固な瞳で見上げてくるティファを見つめたクラウドは、少し目線を逸らすとうん、と頷いた。
任せろ、ともう一度言う。
「…起きられなくしてやる」
FIN
今年もこんな感じです。ということで、また一年の始まりです。
仲良くね、お二人様v(うひ)
「姫初め」ってなんてヒワイな言葉でしょう。
本来の意味は「正月料理から普通の食事に切り替える」こととか
「乗馬」とかいろいろ説があるようですが、通説どおりここはそういう意味で(何)
今年も弄らせてもらいます!覚悟してねそこの二人vv(特にテハv)