<SS 55555HIT Whereabouts of ... 3>
「何かしら、これ」
今電話しようと思ってた、と胸を撫で下ろす雑貨屋の女将から受け取った小さな紙袋をティファは目の前にかざす。
彼女の話から、持ってきたのがヴィンセントだという事が予測できたが、その経緯まで測り知る事は困難であった。
「急ぎって言ってたらしいから、ナマ物かもしれないぜ。開けてみれば」
並んで歩くジョニーの言葉に そうね、と応えた。
「家に着いてから…あ、ごめんね?結局家まで持ってもらっちゃって」
気付けば目の前は子供たちの待つ我が家である。
全然、と嬉しそうなジョニーにティファは そうだわ、と続けた。
「ね、お茶くらい飲んでいって?そのうちクラウドも帰って来るわ」
勘弁してくれ。
そう叫びたかったがティファはにこにことジョニーの背中を店の扉に向けて押しやる。と。
「う ご く なーーーー!!!!」
嬉しそうに中から飛び出してきたデンゼルによろけた二人は持っていた荷物を取り落としてしまった。
ジョニーに至ってはそのまま後ろにひっくり返り、ごろごろと転がる果物と共に二度ほど後転を披露する。
「あ、」
しまった、という表情を隠しきれず身体にティファの長めのエプロンを斜めに巻きつけたデンゼルは
逆手に持っていた箒を後ろ手に隠した。
「で、デンゼル?!」
「ほら!だからちゃんと確かめてからって言ったのに!」
道端に散らばる買い物を目で追ったマリンが 大変!と駆け寄った。
「ご、ごめん!てっきりヴィンセントかと思って…なんだジョニーか」
「こ、こら!デンゼル」
萎縮したかと思うと一転、起き上がったジョニーに嫌な顔を見せたデンゼルをティファは慌てて窘め、足元に落ちている
小さな紙袋を見とめて青くなった。確か、お祝いだと言っていた筈だ。
「ジョニー、これ壊れ物じゃない?!大丈夫?!」
びっくりした、と腰をさするジョニーはティファが拾い上げてくれたそれを受け取る。
「あ、ああ、全然平気」
デンゼルこのやろう、と思ったが自分を引っ張り起こしてくれたティファの手の柔らかさにうっとりした。
こんなことなら何度転がされたっていい。
「…ジョニー、クラウドもうすぐ帰って来るよ」
ぼそりと呟くデンゼルに、背中に氷を突っ込まれて背筋が引き攣った。
「じゃ、じゃあ、ティファ!またな!!」
「あ、ちょ…」
言い残してあっという間に去っていったジョニーに殆ど礼も出来なかったティファは口先を尖らせて視線を逸らすデンゼルに
もう、とひとつ息を吐いた。
「クラウドから連絡あったの?」
「うん。ヴィンセントに動くなって」
「……?」
散らばった物をすっかりと片付けて戻ってきたマリンの頭を優しく撫でてから首を少し傾げたティファは、
それでも何となくヴィンセントが持ってきたというその紙袋がクラウドのものである事を認識した。
何なのだろう。
はあ、と大きな溜め息を漏らすと傾いて大きく見える夕日を仰いだ。
「…一日、終わっちゃうね」
子供たちも呼応して静かに頷いた。
未だ微かに残る鉄錆のにおい。
住処とする街のそれでも懐かしい空気を吸い込んだクラウドは盛大な溜め息を吐いた。
疲れた。
こんなに疲れたのは久しぶりだ。いや、初めてかもしれない。
あの後、路上で困窮する男の故障したトラックを担いだり。
こんな時に限ってうようよとエンカウントする魔物を追い掛け回したり。
どうして今日なんだ、と居るのかどうかも判らない神とかいうヤツを何度も呪った。
だが。
辿り着いた。
ここはエッジである。
愛しい彼女の待つ我が街である。
家まであと僅かであったが、目の前の人で溢れかえる広場をじとりと見遣るとバイクから降車した。
さすがに蹴散らすわけにはいかない。
ハンドルを握りしめ、歩き出そうとしてふとすぐ横に居る少年に気付く。
4〜5歳くらいか。不安そうに辺りを見回し、時折「ママ」と呟いている。迷子か。
誰か助けてやれ、と非情にも目を逸らそうとした瞬間、少年と目が合う。
やってしまった。
一度目を泳がせたが、視線を戻すとやはりこちらをじっと見ている。今にも泣き出しそうだ。
俺が泣きたい、とフェンリルのスタンドを降ろしその少年の腕を掴んだ。
「…母親は」
ふるふると頭を振る小さなその身体を抱き上げ、肩に乗せた。
「探せるか?」
「…おじちゃんの髪、ちくちくして痛い」
誰がおじちゃんだ。
「文句言うな」
ゴーグルを覆う小さな指の隙間から何とか視界を確保して辺りをうろついた。
俺は何をしているんだ。
こんな事してる場合じゃないだろう。
早くしないとあれがティファの手に渡ってしまう…。
そこまで考えて、クラウドは騒がしい雑踏の中で足を止めた。
もう、いい。
結局は彼女に渡すものなのだ。
あれこれと考え続けた手順も、
きっと驚くであろう彼女の可愛らしい顔も、
その白い手におさめる前にかける言葉も。
勿体無い事ではあるが、ティファの細い指に煌くであろう指輪。
これを以って瞑する、だ。
「おじちゃん…?」
動かなくなった乗り物を怪訝に思ったのか、少年が声を発した。
お兄さんだ、と呟いたクラウドは小さく息を吐くとまた歩き出した。
相変わらず少年の掌によって狭められた視界に、赤い物体が映る。
「ヴィンセント…?」
向こうもこちらに気付いたのであろう、人込みをすり抜けるようにして彼は目の前までやってきた。
「3人目か…?」
目線を上方に遣ったヴィンセントのアホらしい言葉は無視する。
「例の物は?」
クラウドの言葉に少しその赤い瞳を泳がせたヴィンセントはゆっくりと口を開いた。
「…少しいろいろあってな。先程店に確認したが、ティファが回収したようだ」
「……そうか」
しんみりとした空気が漂ったが、突然少年に髪を鷲づかみにされたクラウドは 痛っ!とその口元を歪めた。
「ママだ!」
「もう手を離すなよ」
「うん!バイバイ、おじちゃん!」
「お兄さんだ」
何度も頭を下げる女性と、ころりと元気になった少年の後ろ姿を見つめながら自分の言葉を思う。
繋いだその手を離さない。
たったそれだけのことだ。
にわかに隣のヴィンセントがふ、と笑った。
「何だ」
「いや…何か吹っ切れた顔をしている」
この男には何もかも見透かされているような気がする。
だが、悪い気はしない。
そうかもな、と呟くと停めて置いたフェンリルのスタンドをあげた。
「今日はすまなかった。…ありがとう」
少し距離もあり、周りが騒がしい事もあってその声は届いたかどうか解からないが、ヴィンセントは穏やかな目を向けると
ついでだ、と呟いてまた雑踏の中に消えていった。
どちらがついでであったかに関しては今のクラウドには関係のないことである。
「おそーーい!クラウド!!」
扉をくぐった途端デンゼルの不満の一声を浴びせかけられながらクラウドはカウンターの奥で微笑むティファに笑みを見せた。
纏わりつく子供たちに、次の休みの約束を誓う。
「あ、結局ヴィンセント来なかったよ?」
デンゼルがやはり不満そうに呟いた。
「使命」を果たせず燻っているらしい。
「ああ、それはもういいんだ。悪かったなデンゼル」
言いながらクラウドは店内を見渡した。
いつも自分が腰掛けるカウンター席の卓上に置かれている小さな紙袋。
あれか。
「ティファ」
デンゼルのくせっ毛を撫でてから、夕食の支度に追われている彼女を呼んだ。
「ん?」
首を傾げるティファに手招きをする。
タオルで手を拭った彼女は なあに?とカウンターから出た。
「中身、見たか?」
クラウドの目線の先を追ったティファは あ、と呟いた。
「クラウドの荷物みたいだから、まだ開けてないけど…やっぱり冷蔵庫に入れておけば良かった?」
賞味期限、か。
クラウドはふ、と口元を緩めた。
しばし封がされたままの紙袋を見つめてから、クラウドは顔を上げる。
彼女の両手を自分のそれで握り締めると、微かに頬を染めたティファが どうしたの?と見上げた。
水を使っていた所為か、少し冷たいその手が逆に滾って熱くなり始めた肌に心地良い。
「俺…ティファに渡したいものがあったんだ」
ずっと前から、と呟くと赤味がかった大きな瞳を見開くティファの頬が更に紅潮した。
見詰め合って黙り込む大人達に気付いたマリンはデンゼルを突付く。
「デンゼル、二階に行ってようか」
「いや、いいんだマリン。二人ともここに居てくれ」
え、と顔を上げたマリンとデンゼルはクラウドのいつにない真摯な瞳に応えるように うん、と深く頷いた。
近くの卓席に座り込む子供たちを見ていたティファの少しぼんやりとした瞳が戻ってくる。
彼女の手を握る掌が心臓になったような錯覚を覚えた。でも、離しはしない。
「ずっと、考えていたんだ」
その白い手に視線を落とした。
「どうやって渡そう。どんな言葉が必要なのか。いつ、どのタイミングで切り出そうか」
ティファはそれを、…自分を本当に必要とするのだろうか。
「…クラウド」
彼女の手に力がこもった。ぎゅっと握り返してくる。
目を上げれば、幼い頃から変わらないその強い瞳。
潤んでいる意味は、きっと。
「わたし…」
「待った」
ティファの言葉を意図して遮った。
「俺に言わせてくれ」
指に嵌めながら、言おうと思っていたのだ。
彼女の手を引き、カウンターの上にある紙袋を手繰り寄せ、封を開けた。
なんだ、この好調具合は。
こんなに上手くいっていいのだろうか。
思わず調理台のガスコンロを確認する。『焦げてる!』なんてことは…無さそうだ。
子供たちは大人しく、固唾を呑んで見守っている。
ティファは染まった頬のまま、少し俯いて「その時」を待って、いる。
袋の中身を鷲づかんで取り出した。
ここまで来れば、もう邪魔するものは何も――――。
―出産祝い―
クラウドは己の掌にちょこんと乗った塩化ビニール製の小さなアヒルを
ただ黙って見つめていた。
FIN
ジョニーは常連さんに
「うううちの娘にどどどどういうつもりだーーー!!」と常連契約破棄されてるといい。(…)
55555HITを踏み抜いて下さった澪さんのリクエストで
「『やればできるんだから!』の言葉を別の部分で言ってみたい!」
「まだ渡せていない模様の例の物、今度こそ渡さないと!! って思えるぐらい、思いっきり追い詰めて、
でも、ヘタレクラも好きなので…結局渡せない!! そんな切ないクラウド」
というお題でした。
「やればできるんだから!」の部分についてはあら一体何処に?な感じですが(ごめん澪さん)
苛めました。結構切なく出来上がっており…ます、か?(か?!)
さ、さて。
澪さん、キリ番フミフミとリクエスト、ありがとうございました!!
遅くなってすみません!お納め頂けると幸い…!