<SS 45000HIT Affection>





さらりと流れる艶やかな黒髪

優しく細められる紅茶色の瞳

愛に満ちた、微笑み

彼女はまるで


聖母




Affection





こんな気持ちは初めてなんだ。

苦しくて、切なくて、…でも痛むような胸を両手で押さえると何故か温かい。

これが、恋というやつだ。


『色男は大変だな』


周りの輩はまたか、と軽く笑う。

確かに、…自分で言うのもなんだが、俺の甘いマスクは近所でも評判だ。

嫁に貰ってくれと言い寄る女は何人も居た。

でもそれは向こうが勝手にのぼせ上がってるだけで、俺の気持ちなんて誰一人考えてやしない。

将来親父の店を継ぐであろう安泰した未来を見越しての浅ましい気持ちも見え隠れする。

そんな身勝手な女ばかりの日常。

そんな中で、俺は見つけたんだ。

あの、笑顔を。

ふわりと全てを包み込むような、どこか懐かしい、優しい微笑み。

彼女は、きっとアイツらなんかとは違う。

なにより俺自身がこんなにも…焦がれているんだ。

そこが重要なんだと、思う。



「そうだな」

雑貨屋である自宅の裏手。軒下で腕を組んだままその壁に寄り掛かって話を聞いていた金髪の青年はうん、と頷く。

――クラウド=ストライフ。週に1〜2度店の補充商品を運んでくる配達屋だ。


目を閉じたままのその顔をじっと見つめた。

他の奴らが笑い飛ばす俺のこの恋心をコイツはこうやって黙って聞いてくれる。

黙って聞くだけならその辺の犬猫にだって出来ることだけれど。


…どうしてだろう。

この男には、ついいろいろと話してしまうんだ。

特に、あれこれと詮索してくるわけじゃない。

ただ「うん」とか「そうか」とか相槌を打ってくれる、それだけなんだけどな。

ただ適当に聞き流しているだけだと言われたらそこまでかもしれないが、

何故か、コイツなら判ってくれる。

そんな気がするんだ。


「伝えたい気持ちは…はっきりと言葉にした方がいい」

伏せていた瞼をゆっくりと持ち上げたクラウドはそこにからりと晴れた今日の青空を吸い込んだかのような色を湛え、

遠くを見るように言った。

この男の容姿も、俺に負けず劣らずの評判を耳にする。

整った顔立ちに不思議な煌きを放つ切れ長の瞳。

細身のくせに上腕に纏わる鍛えられた筋肉はその背に鎮座する馬鹿でかい剣を軽々と扱う様を容易に想像させた。

実は密かに憧れているなんて、ちょっと悔しいから言ってやらない。


「…俺、これから行ってこようと思うんだ」

今まで踏ん切りのつかなかった思いが、クラウドの言葉でやっと決心できたように思う。

口に出してみると更にそれが固まった。

「そうか」

ふ、と緩められたクラウドの口元に少し驚く。

へぇ…。そんな風に笑うこともあるのか。

なんとなく、その辺の女共が遠巻きに黄色い声を上げる気持ちがわかったような気がした。


まだ仕事が残っているから、と体を起こしたクラウドは組んでいた両腕を解き、振り向かずに俺の肩をぽん、と叩く。

「頑張れよ」

そう、聞こえた。

そういえば、クラウドの彼女とはどんな女性なのだろう。

いつも俺が一方的に話すばかりで、コイツの事は何も知らない。

優しく叩かれた肩へ伝わる温かさに、きっといい女なんだろうなと直感的に感じる。

いつか、聞いてみたいと思った。





先日、親父と一緒に通った道のりをはやる気持ちを抑えつつも確かな足取りで辿る。

セブンスヘブン。彼女の働いている店だ。



「あら、ジェイク」

店の前の鉢植えに水を差していた彼女が俺に気付く。

自分の名前がその舌に乗せられるだけで胸がときめいた。

「どうしたの?こんな時間に」

見つめてくる澄んだ紅茶色の瞳が優しく揺らめいている。

見ろ、この嬉しそうな微笑み。

この間、初めて会った時からなんとなく気付いてたんだ。

彼女もきっと…。

「お店まだだから、寄っていく?」

嬉しそうに、少し頬を染めて笑いかけるティファ――彼女の名前だ――が あら、と俺の顔を覗き込んだ。

つい、とたおやかな掌が頬に触れる。

目の前に迫った長い睫にどくん、と心臓が波打つ。

「汚れてる」

何かの拍子についてしまっていたのだろう頬の汚れを彼女の白い指先が拭った。

ふふ、と笑むティファに、暴れる鼓動を押さえつけながらも嬉しくてつい口元が緩んだ。

見るからに身持ちの硬そうな彼女が、好きでもない男の顔に易々と触れてくるだろうか。

もしや、という期待は僅かずつ確信に変わる。

絶対、脈アリだ。

ふわりといい匂いを残してティファは店の扉を開けると どうぞ、と俺を店内に招き入れた。


「その辺に座って。何か飲む?」

いそいそと厨房に入り込んだ彼女を追う様に、卓席には目もくれずカウンターのスツールに座り込む。

ティファと目を合わせて話がしたいんだ。

きっとこの想いは…伝わる。

「デンゼルとマリン、まだ帰ってないのよ」

当然だ。その時間を見計らって来たんだ。

あんな小うるさいガキ共が居たら面倒で仕方ない。

「どうぞ」

ことりと目の前に差し出された甘い香りのする液体が漲るグラスに少しげんなりした。

ご丁寧にストローまで差さっている。

俺は小さく嘆息した。

確かに俺はティファより年下だ。子ども扱いされるのは覚悟の上。

でも考えてもみろ。歳をとったらどっちも年寄りだ。歳の差なんて、俺はそんなこと気にはしない。

この考えも大体、…クラウドの受け売りなんだけどな。

「…飲まないの?」

カウンター内から出てきたティファは俺の隣のスツールに腰掛けると、片肘を付き綺麗な弧を描く頬のラインをその掌に沿わせて首を傾げた。

…なんて綺麗なんだ。

至近距離でにこやかに見つめられて鼓動は更に高まる。

「…ティファ、俺…」

ん?と美しいまでにすっきりと整った眉があがった。

どこまで俺の純情な心を魅了する気だろう。

落ち着け、俺の心臓。

「俺…ティファが…」


からん、とドアベルが沈黙した店内に鳴り響いた。

そうしたら俺を見つめていた優しい瞳がつい、とそちらに向けられ今まで見たこともないような嬉しそうな表情を見せたんだ。

「クラウド」

おかえりなさい、というその声までもが、初めて聞くような甘いものに思えた。

クラウド?…聞いたことがある名前じゃないか。

「…ジェイク?」

ああ、その声も聞き覚えがある。

名前と、声。脳裏に浮かんだとある人物の姿形が、なんとなくゆっくりと振り返った店の戸口に佇むその男のそれに重なった。

ああ、やっぱりクラウドじゃないか。

あれ?…待てよおい。

おかえりなさい、と言ったのか、ティファ。

…それは何を意味することなんだ?

友達 家族 兄妹 いや、何か違う。他に何があっただろう。

思考がぼんやりとして追いつかない。

「あら、お知り合い?」

楽しそうなティファの言葉に耳も貸さず、腕を組んであらぬ方向の空を神妙に睨んでいたクラウドのこめかみがぴき、という音を立てた。(気がした)

と思った瞬間。

「え…?あ、あの、クラウド…?」

つかつかと大股で歩み寄ってきたヤツはなんだか慌てるティファの肩をおもむろに抱き寄せると…キスした。
キスした。キスした。

「ん…んんー!」

じたばたと暴れているティファの腕がスローモーションのようにぼんやりと映る。

目の前がちかちか、した。

「も、もう!!子供の前で…なんてこと!」

真っ赤に頬を染めたティファが言い放った言葉で、俺はスツールを飛び降り、走り出していた。

「ジェイク!?」

背中に彼女の声が掛かったが、振り返らなかった。





「そ、そう…ジェイクがそんなこと…」

熱くなった頬を冷まそうと両手をそこにあてたティファは少し俯いた。

「だからって…あんな…」

「ああいうガキにはこれくらいしっかり擦り込んだほうがいい」

抑揚の無い声にティファは顔を上げてクラウドの精悍な顔を見つめる。

「…ティファは無防備すぎる」

怒ったような視線を空に投げていたクラウドはそのまま言い放った。

「アイツの話によれば…随分思わせぶりだったみたいだ」

「お、思わせ…」

慌てたティファは自分を見ようとしない青年に食い下がる。

「で、でも、あの子まだ6歳よ?」

子供じゃない、と続けるとその魔晄色を深めた綺麗な瞳がゆっくりとティファを捉えた。

だからなんだ、とでも言いたげに真っ直ぐ見つめられて今度はティファが目を逸らす。

「だって…あの子、」

俯いたまま、耳まで赤くなった。

「なんだか…その、子供の頃のクラウドに似てて…可愛かったんだもん」

ティファは言ってから、いつまでたっても反応を返さないクラウドを恐る恐る見上げた。

押し黙ったままのクラウドはその視線に気付いて少し染まった頬を背けるとぽりぽりと頭を掻きながら呟く。

「だから余計…厄介なんだ」

「…?」

何が?と首を傾げるティファをちらりと見遣る。

「俺は…その頃から本気だった」



二人がなにやらむず痒く黙り込んでいる頃。


ジェイクは走っていた。




なんだよ、

「頑張れ」って言ったじゃないか


随分と走り続けてから、ゆっくりとその足の運びを緩めた。

はあはあと息を切らし立ち止まると暮れかけた夕日が建物に反射して気に入っている靴先を赤く照らす。

その色が、つい先程見せたティファの頬のそれを彷彿とさせた。


すごく、幸せそうに笑うんだ


足元にあった小石を蹴り飛ばそうとして空振りする。

「…ちぇ…」

空しく上がったままの右足を下ろすと眩しさの和らいだ傾く太陽に出会った。

それはあっという間に歪んで、滲んだ。


女なんて、女なんて…!



「ジェイクー?」


聞き慣れた声に弾かれる。

地面を踏みしめていた足は無意識にその方向へ駆け出し、無性にこみあげる何かを吐き出す言葉に託した。



「…ママーーー!!!



「どこまで行ってたんだいこんな時間まで…いやだよ泣いてるのかい?」

しょうがない子だね、と抱きしめてくれる柔らかな、温かいその胸にしがみ付きながら

聖母はここに在りきと噛み締める6歳児であった。







FIN


6歳児だろうが容赦ないのクラウド氏。(非道)
この次は「分相応」という言葉を教えてやろうと思ってるとか何とか…。
45000HITを踏み抜いてくださったVXZさんのリクエストで
『クラウドのちょっとした知り合いの男(ティファやセブンスヘブンのことは知らない)が初めてセブンスヘブンに来て
案の定ティファに一目惚れ。しかしそこにクラウドが帰ってくる話をその男視点で』
というものでした。
…え?何か違う…?
はい、かなり違います…(地雷踏)
VXZさんゴメンなさい…こんなになっちゃいましたが私結構気に入ってたり…!(わー)
キリ番フミフミ、ありがとうございました!!
も、もう狙ってもらえないかもっ(゜∀゜)

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