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「なあ、クラウド…朝には帰ってくるって言ってたよな?」

デンゼルはかばんを肩から横掛けにすると少し拗ねた口調でティファの顔を見上げた。

困ったように微笑んだティファはうーん、と小さく首を傾げる。

「しょうがないでしょ、クラウドはお仕事なんだから。遊びに行ってる訳じゃないんだもの」

マリンが唇を尖らせたデンゼルをたしなめた。

わかってるよそれくらい、と俯いて呟く息子のふわふわとしたくせっ毛をティファはごめんね、と優しく撫でる。

少し遠出だった今回のクラウドのお仕事。

本日の早朝に帰宅予定だった彼と一緒に朝食をとろうと早起きして待っていた子供たちは迫る登校時間にしぶしぶ重い腰を上げたところである。

「楽しみにしてたのにね…?」

「べ、別に…」

微かに頬を染めるデンゼルはちら、とまたティファの顔を見上げて肩を竦めて見せた。

「行くぞ、マリン」

勢いをつけて店の扉から飛び出したデンゼルを見遣ったマリンはやはりその小さな肩を竦め、兄を真似て見せてティファに笑みを向ける。

ふふ、と微笑み返すと外から置いてっちゃうぞ!と声があがり、マリンはふう、と息を吐いた。やれやれ、という仕草がなんとも可愛らしい。

「はーい」

いってきまーす!という後姿をしばらく見つめていたティファは店の時計に目を遣る。

カウンターの上に置いてあった携帯電話をとりあげるとそれを開いて、閉じた。

きっと今頃一生懸命バイクを走らせているのだろう。

「…大丈夫。よね、クラウド」

うん、と一人頷くと携帯をポケットに押し込み、朝食に使った皿をひとまとめにして流し台へと向かった。


卓席のテーブルを全て拭きあげたティファは店の奥のかたん、という小さな物音に気付いた。

聞こえてきた方向から考えて、それが裏口からのものだと確認する。

バイクのエンジン音はしていない。

しかし、あの扉を開けられる者は家族だけである。


「クラウド…?」


そっと裏口へと続く廊下を覗き込んだティファはその名の持ち主が扉に寄り掛かるように佇む姿を視認した。

彼がそこにいるという安堵と、小さな疑問が一緒になって胸に湧き起こりダスターを握り締めたまま駆け寄る。

「おかえりなさい…どうしたの裏口からなんて……クラウド?」

聞こえていないのか、身動ぎ一つしないクラウドを不審に思ったティファは彼の名をもう一度呼んだ。

目を閉じていた彼はやっと気が付いたようにびくりとその瞳を開いた。

「…っ」

目の前のティファに何やら狼狽して持っていたフェンリルのキーを取り落とす。

微かな金属音にそれを目で追ったティファは屈んで手を伸ばすと、同時に拾いに伸ばされたクラウドの手が鍵の上で触れ合った。

「あ…」

彼を振り仰いだティファは自分の頬が急速に火照り上がるのを感じた。

別に互いの手が触れ合ったから、などという事象の所為等ではない。(彼等はそんな初々しいレベルでは既に無い)

間近に迫ったクラウドの自分を見つめる綺麗な蒼瞳がなんだかやけに熱っぽく、その奥に見え隠れする鈍いようで鋭い光を見留めてしまったからだ。



仕事を終えて家に辿りついた彼のティファに対する所謂「ただいま」は臨機応変。

その内容の濃さはその時の周りの環境に配慮される。

子供たちが一緒に出迎えたり、まだ店が商い中であったりする場合はその人目を忍んですかさず一瞬、であり。

彼女が一人で微笑んでいれば、取るものも取りあえず攫う勢いである。

離れている時間の長さというのも拍車のかかり具合に比例したりなんかする。

何にしろ、『そうされる』のは常であり、奇しくもその見つめる魔晄の瞳が妖しかったりすればそれに慣らされた身体が勝手に鼓動を早めてしまうのは

仕方の無い事だった。


「……!」

手の甲に触れていた彼の大きな手に突然力が込められ、ティファは咄嗟にぎゅっと目を閉じた。

が。

「……くそっ」

微かに耳に届いたクラウドの小さな悪態と共にぱ、とその手を解放される。

鍵を拾い上げた彼はその勢いのまま立ち上がった。

ティファは目を開くと彼の呟きに何となく混乱を覚えながらも両手を自分の熱い頬に当てる。


や、やだ、私ったら…


「…悪い。部屋で伝票、片付ける。そのあとすぐ休むから」

俺の事は気にしないでくれ、と続けるクラウドを見上げると、彼は片手で口元を覆い苦しげに細めた目をさっと逸らしてそのまま階段を上がっていってしまった。

ぼんやりとその後姿を見送ったティファはのろのろとした思考でその背に彼の名を投げかけなくて良かったと考える。

それではまるで…ねだっているみたいだ。

更に火照る顔と高鳴る動悸。

当てた両手でぺちぺちとその頬を叩いた。

クラウドは疲れて帰ってきてるのよ?なのに…

はしたない考えはひどくティファを苛んだ。恥ずかしくて消え入ってしまいたかった。

「………」

でも、

「ただいま、くらい…言ってくれてもいいじゃない…」

立ち上がったティファは階上を見上げると持っていたダスターを何となく握り締めた。


「はい、毎度ー!」

景気よく開かれた店の扉にティファはびくっと飛び上がりそうになる。

戸口には近所の八百屋の配達員が頼んである野菜を抱えて立っていた。

「あ、はい!…わ、もうそんな時間?」

慌ててカウンターの作業台の下に置いてある小さな金庫を開けると未だ熱い頬を気にしながらご苦労様、と駆け寄った。

代金を支払おうとする彼女に八百屋はそういえば、と呟く。

「なあ、クラウドさん大丈夫だったかい?」

「…え?」

お釣りを数えながら八百屋の配達員は続けた。

「いや、今朝方帰ってきたんだろ?俺見かけてさ、…何か凄く辛そうにしてたから。怪我でもしたのかと思って」

掌に載せられた小銭が音を立てて床に転がった。

…ケガ…?

急速に頭の芯が冷えていくのを感じる。

「…ティファちゃん?」

名前を呼ばれてティファは散らばったお金を慌てて拾い上げる配達員に目を向けた。

「ごめんなさい、お野菜、その辺に置いといてくださいね」

呆ける男をその場に残してティファは二階へと駆けだした。


気がつかなかった…!


クラウドには、ごく稀ではあるが出先で魔物から負った不慮の傷などを彼女に隠す節がある。

心配を掛けたくない、という思いがそうさせるのかもしれないが、ティファはそれをひどく窘めたことがあった。

扉に寄り掛かって目を伏せていた彼の表情を今更になって思い出す。

今朝方、と言った八百屋の言葉は彼がきっとその脅威の自己再生能力が傷を癒すまでガレージに身を潜めていたことを思わせた。


馬鹿馬鹿!どうして気付いてあげられなかったの?


「クラウド!」

彼の仕事部屋の扉を勢いよく開ける。

「来るな、ティファ」

その足音に気付いていたのか、簡易の寝台に座り込んでいたクラウドは顔も上げずにひとこと言い放った。

微かに冷ややかさを含んだその物言いは確かに拒絶のもの。

踏み止まりそうになる心を押しのけて、ティファは負けなかった。

「クラウドの馬鹿!どうして…!」

最後まで言い切れずになんだか涙が滲んでくる。

それを手の甲でぐいと拭うと座ったままの彼の前に駆け寄った。

「…ティ…」

膝をつき、剥きだしの両腕に素早く目を通すと、傷跡や変形が見受けられないことを確認し、途惑うようなクラウドを尻目に未だ着替えていない仕事着の上から

硬い胸板に両手を這わせた。びくりとその身体が震えるのを感じ取る。

「…ダメだ、よせ」

彼は苦しげにその顔を背けた。

「こういう時はすぐに言ってって、あれほど…」

クラウドの言葉を無視して入念にそのラインに沿って触診する手をわき腹から背に回す。

心配くらい、させてくれたっていいじゃない…!

「私じゃ役に立たないとでも言うの…?」

よく見ようと思うのに、どんどん目の前が滲んできてかなわない。

「…ティファ…っ」

振り仰いだティファは突然クラウドの呻くような言葉と共に力強い腕に取り込まれて息苦しく喘いだ。

所在を確かめようとさ迷わせていた両手でその背に縋りつく。

「…クラウド、…熱いよ…」

どこかにある傷の所為で発熱しているのかもしれない。その言葉に何だか更に力を込められた腕の中でもぞもぞと脱出を試みる。

「…こんなこと、してる場合、じゃ………」

言いかけて彼女は押し当てられる彼の厚い胸板を覆う衣服から微かに身に覚えのある臭気を吸い込んだ。

野草を煎じたような苦甘い薬臭にぴたり、と動きを止めるとなにやらその腕の中で大人しくなる。

「く、ラウド…あの、これ…」

「…だから…ダメだって言ったんだ」

苦しげに見下ろされた揺らめく魔晄の色は深みを増して熱っぽく、そして鋭い。

身体に直に伝わる彼の馬鹿みたいに早い鼓動。堪えるような荒い息遣い…。ティファは確信した。

こ、興奮剤…?

ごく稀にアイテムを所持している魔物は、絶命寸前にそれを投げつけてくる事がある。

回避しようと振り切った剣がその中身をぶちまけてしまったというのは容易に想像できた。

「もう少しで回復、出来そうだったんだが…な」

「あ、ほら!鎮静剤!確かその引き出しに…」

迫る薄い唇から逃れようと身を捩ったティファは顔を背けた所為でその熱い吐息を耳で直に受け止める事となる。

「もう必要ない」

短く答えたクラウドはもう既に「ここ」には居ない。

熱に浮かされたような視線に射抜かれ、あっという間に唇を奪われた。

「んん…っや、あの…ちょ…っと待って」

「無理」






そのころ

デンゼルは授業中に大あくびをして先生に怒られていた。

マリンは隣の席の男の子に消しゴムを貸してあげていた。

ジョニーは缶の封切りに失敗してコーヒーの豆をばら撒いていた。

その辺の犬はなにやら寝ていた。

小鳥はさえずっていた。

八百屋の配達員は足りない小銭を這い蹲って探していた。











ぐったりと横たわるティファの汗ばんだ頬にクラウドは


「ただいま」と軽く口付けた。









FIN



バーサククラウド…(ぉぃ
え?いつもと変わらない?
…そうかも(いや、いつもより大人しいかも)
30000HITをフミフミしてくださったゆうさんからのリクエストで、
「いつもと様子の違うクラウドにドキドキなティファ」というお題を頂きましたvv
えー…我家はこんなトコロです(開き直り)
ティファ、ドキドキしてますか…?
そしてオチは…?

「興奮剤」…素敵なヒビキのアイテムですヨねv(逃)

またこんな…ですが、ゆうさん!貰ってやってくださいませ〜!!


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