<SS Violation>





Violation


「あ、あの…本当にこれしか無いんですか?」

目の前の大きな姿見に映る己の姿を困惑気味に見つめたティファは背後で背中のホックをとめる貸衣装屋の女性店員にもう一度確認した。

「…お客様の場合…その、やはりサイズの点で限られてしまうもので…でもとてもお似合いですよ!」

ほう、と感慨深いため息を吐かれると悪い気はしない。しかし。

しなやかな曲線にぴたりと張り付くようなスレンダーラインのロングドレスはそのふくよかな胸元を強調し、髪をきっちりと結い上げた背中は大きく開いている。

何より右脚の大腿部辺りから入ったスリットは動くたびにその中身(俗にフトモモという)をちらほらと覗かせた。

(クラウドが居なくて良かった…)

クラウドはティファが肌を露出する事をきっぱりはっきり禁止している。

以前の旅で着用していたミニスカートですら彼の一言であれ以来日の目を見ることは無い。

何でも、ティファの肌を見ていいのは自分だけなのだそうだ。

「あの、何か羽織れるものを一緒に貸していただけませんか?」

なにやら僅かに頬を染めながら呟くティファに店員はうーん、と考える仕草を見せるとその深紅のドレスに合うようにと

シースルーのショールを引っ張り出してきて手渡した。

「すみません…ありがとう」

ティファはそれを肩に羽織るともう一度その姿見に自分を映した。

後ろで片付け作業に入った女性に気付かれないように露出した部分の肌を見回す。

『禁止令』当初は嫌でもそうせざるを得ないようティファの透き通るような肌のあちこちにクラウドが、その…アレだ。(なんだ)

『印』の点検を終えたティファはそれが見当たらない事にほっと息をつき、改めて己の姿を見詰めた。

「………」

(こんなシックなドレス…着こなせるようになったのね)

こんなに自分を着飾るのは久しぶりだ。ドレスはちょっと際どい点が気にはなるがいつもより少し丁寧に施した化粧もなんだか心地良い。

背筋に一本気合が入ったような感覚は女性特有のものだろう。

「よし!」

ティファは腰に手を当てるとその気合を声にして吐き出し、一度頷いてからやはり久々のハイヒールを気遣いながら流し目を鏡に残した。









「急で悪いね。でもあんたの所が一番早く届くから…開店祝いなんだけど、今夜中に間に合えばいいよ」

伝票と引き換えに大きな花束を受け取ったクラウドは届け先がカームである事に思いを馳せた。

「いやね、私の姪夫婦が酒場を開店させるって言うもんだから…私が直接お祝いに行ければ一番いいんだけど、ちょっと腰をやっちゃってね」

ティファが待っているであろう我家を通り過ぎるルートだ。

携帯の電源を落としておくべきだったとという後悔の念はその無表情さの上に億尾にも出ない。

「何だかアクシデントがあったらしくて…でも手伝ってくれる人が見つかったから予定通りオープンするって、ついさっき連絡がはいってね」

仕事中に相次いで入る飛び込みの依頼を断らなかったのは依頼者の家が何故か尽(ことごと)く計ったように家路を急ぐ通り道だったからだ。何かの陰謀かとすら思える。

店が定休日の今日は自分もオフの予定であった。

子供たちは学校の泊りがけ行事で不在。なんと彼女と二人っきりの……(お好きな言葉をどうぞ)な休日、の筈だった。

朝一番にかかって来た得意先の急な依頼から始まっている本日の不運。

今思えば家の電話線を引っこ抜いておくべきだったのだ。(抜くな)

本当なら今頃……(お好きな言b

「…ストライフさん?」

「間に合わせます」

聞いてたんだ、と苦笑いする客に軽く会釈するとお大事に、と付け足して心持ち足早にその場を後にする。

愛車に荷物を積んだクラウドは携帯電話を取り出すと電源を切ろうとしてやめた。ティファから何か連絡があるかもしれない。

もしそれが追加の依頼だったとしても、彼女の声で取り次がれるのであれば喜んで……いや、もうこれ以上は無しだ。

さっさと終わらせて早く彼女の元に帰ろう。

ひとつため息をつくと閉じた携帯をポケットに捻じ込み、フェンリルのエンジンをうならせた。










カームの商店街並びに真新しく改装されたピアノ・バー。落ち着いた雰囲気の店内の隅には生演奏が売りであるグランドピアノが重々しく置かれている。

「今日は急なことでごめんなさい…でも引き受けてくださってとても助かったわ。開店初日からピアノが飾り物じゃお話にならないもの」

店主である女性は暗めに調整した照明のあたるカウンターの中で申し訳無さそうに、でもにっこりとスツールに腰掛けるティファに笑いかけた。

「バレットさん…でしたかしら。あの方も見ず知らずの私たちのために…本当に情の深い方なんですね。宜しく伝えてくださいね」

女性の後ろで右手に包帯を巻いたご主人らしき男性もティファにぺこりと頭を下げる。

この人がバレットの言っていた「怪我をした演奏者」かしら、とティファも手にしていたグラスをカウンターに置いてから挨拶をした。

「でも本当に良かったんですか?お二人のお店の記念日に私なんかのピアノで…」

自分のピアノの腕が人様に聴かせることの出来るようなものではないと言うことは、演奏する前から何度も伝えていた。

クラウドの休日出勤で急にヒマを持て余す事となった本日の昼過ぎ、突然かかって来たバレットからの電話でこのピンチヒッターの話を引き受けようと思ったのは

ひとえに自分と同じ、『女主のお店』に共感を持ち、手助けできればと思ったからだ。

勢いで引き受けたものの、今更ながらに事の重大さに困惑する。

「あら、とても素敵だったわ。もっと自信持っていいと思うわよ」

言うと店主の女性はすすす、とティファに近寄ると顔を寄せ、小声で囁いた。

「あの人だってプロなんかじゃないのよ?よっぽどティファさんを専属で雇いたいくらい」

ふふ、と微笑むとそれから、と続ける。

「さっきから何人かに貴女へってお酒頼まれてるんだけど丁重にお断りしてるの。バレットさんのお話だと…素敵なお相手がいらっしゃるんですって?」

さっと頬に朱を散らすティファはクラウドを素敵だと感じ取れるバレットの話とは一体どんな内容だったのだろうと少し不安になった。

「ティファさん時々寂しそうな顔してるから…そろそろ解放してあげましょうって主人とも話してたところなの」

「え…」

「会いたいって顔に書いてあるわよ?」

くすくすと笑う店主の言葉にティファは火が点いたように熱くなった頬を両手で押さえた。

確かにティファはこれまでに吐いたため息が結構な数である事に気付いていた。



綺麗なドレス

煌くアクセサリー

紅いルージュ



どれも女性なら心躍るアイテムだ。しかし。

どんなに自分を着飾っても、そこに彼が居なければ何の意味も無いのだ。

言うなれば、自分がどんな出で立ちであろうと、彼が居さえすればそれだけでいい。


早くクラウドに会いたい。

いくつかの追加依頼が入ったが、もうそろそろ帰ってくる頃だろうか。


「あの、じゃあお言葉に甘えて…帰ります」

店主はまたにっこりと微笑んだ。

ティファがスツールから立ち上がったその時。

「おいおいおい、なんだこのぬるいビールは。この店は客にこんなモン飲ませんのか?」

談笑に沸いていた店内が一瞬にして水を打ったように静まり返った。

振り返ると一番隅の席に座っている男が半分ほどに減ったジョッキを高々と持ち上げてそれを運んだウエイターに毒づいている。

どうみても泥酔客だ。

「そ、そんなハズは…」

店主の女性が素早くその席へ足を運ぶと言い返そうとするウエイターを制した。

「申し訳ありません、すぐにお取替え致します」

新しいのを持ってきて頂戴、とウエイターに目で指示を出す。

そう、こういう輩は下手に相手にしない方が無難なのだ。なかなか心得ている、とティファは思った。が、次の瞬間

「女になんか用は無いんだよ!店主呼んで来い!店主!」

持っていたジョッキの中身を店主の顔にぶちまけた。

カウンター内にいたご主人が出て行こうとするのをティファは手で制する。

こんな商売だ。これからこういう客は嫌というほどやって来るだろう。上手くあしらうのも店主の務めだ。

「私がここの主です。他のお客様の迷惑になりますのでお引取り願えますか?御代は結構ですので」

顔から滴り落ちる滴を気にも留めず毅然とした態度は見事なものだった。

しかしそれに逆上するのが泥酔客だ。

「女?!女が店主だと?!」

その言葉にティファの流麗な眉がぴくりと動いた。

「女のくせになめやがって…」

ふらりと立ち上がった男がポケットから小さなナイフを取り出すのと同時にティファはハイヒールを脱ぎ捨てていた。

一瞬で二人の間に飛び込むと、空を切り裂くような風切り音と共に彼女の右足はしなやかに弧を描く。

深いスリットがこんな所で役に立つとは。





配達先であるピアノ・バーの前は人だかりが出来ていた。

なんでも『すげえべっぴんさんがピアノを弾いている』そうだ。

店の窓に群がる人間に辟易しながらクラウドは裏口を探そうとその人だかりを迂回しようとして歩みを進めた。早く帰りたい。

「お、なんかおっぱじまったぞ」

人だかりが更にざわついた。

酒場での喧嘩などはよくあることだ。

クラウドは特に気にも留めなかったが、店内から響く怒声が耳に届く。

「女が店主だと?!」

…ティファが聴いたらぶち切れる言葉だ。

「女のくせに…」

うちの店でこんな暴言を吐こうものなら我が女主の殺人的な鉄槌が下るだろう。

掌打から回し蹴りというところか。

あのしなやかな肢体から繰り出される流れるような攻撃動作を思い浮かべていたクラウドの目の前に店扉をぶち壊す勢いでぶっ飛ばされてきた男が転がる。

悶絶する男に周りの野次馬がおお、と1〜2歩後退さった。

タイミングがいい。まるで中にティファが居るようだ。

「え…?クラウド?!」

開いた扉の奥から自分の名を呼ぶ聞き慣れた可愛らしい声。

まさか、と顔を上げたクラウドの瞳にゆっくりと閉じていく扉の向こうで際どい切れ込みから惜しげもなく晒された太腿がちらりと見えた。

見紛う事なき、ティファのすらりとした脚だ。



「…痛っ…てぇ!畜生、あの女………」

首元を押さえながらも何とか身を起こした男はぱさり、と自分の横に落とされた花束を見つめた。

「…なんだこりゃ」

ふと隣に立つ人間に気付き、顔を上げるとそこには鋭い眼光で己を見下ろす金髪の青年が一人。

得も言われぬ殺気は男の喉元からひっという空気音を零れさせた。周りに居た見物客も無言のまま、またもう一歩後退さる。

「…見たのか…」

ただならぬオーラを身に纏う青年の地の底から響くような言葉は意味不明だが、男は直感的に「死」を意識したという。

花束を手放した右手はもちろんその背にひっさげている武器の柄を迷い無く掴んでいた。







「あ、あの…クラウド?」

一仕事(いろんな意味で)終えたクラウドは『是非うちで働いて!』とティファにラブコールを送る女性店主を振り切ると店の奥へと彼女を掻っ攫った。


缶詰や酒が整然と並ぶ倉庫であろうその部屋は小さな電球が仄かに辺りを照らし、壁際に並んで立つクラウドの端正な横顔も浮かび上がらせる。

真っ直ぐに空を見詰めるその蒼い瞳はこちらを見ようとしない。

「…怒ってる?」

遠くから聞こえる篭もったような店内の雑多な談笑が沈黙を繋ぎとめるようで、そうでもない。

ティファは相変わらず腕を組んだまま微動だにしないクラウドの隣で先ほど脱ぎ捨てたパンプスを両手で握り締め、俯いた。

やっぱり怒らせちゃった…。

「…だな」

ふいに言葉が降ってきてティファは顔を上げた。

「え?」

「綺麗だって言ったんだ。似合ってる」

言い放ったクラウドは腕も組んだまま、顔も背けたままだがその頬が微かに染まっているように見える。

「…本当?」

ティファは壁から身を起こし、その背けられた顔を覗き込むように聞いた。

「ああ」

やっと合わさった魔晄色の瞳はやはり照れくさそうに笑う。

「クラウドにそう言われるのが…一番嬉しい」

クラウドの目の前でくるりと回って見せたティファはひらりと舞ったスリットを気が付いたように手で押さえた。

でもやっぱり恥ずかしいね、とクラウドを見上げると彼は放心したような表情から急にかっと目を見開いた。

「…くそっ!やっぱり店の奴ら全員…!」

剣の柄を握り締めて踵を返そうとするその腕を慌てて引っ掴みぎゅっと両腕をからめて押し留めた。

「…もう…」

馬鹿ね、と呟いたが頬が熱いのでティファはクラウドの肩に顔を伏せる。

しばしそんなティファを見詰めていたクラウドがぼそりと呟いた。

「…そのドレスは明日まで借りられるのか?」

ぼんやりとした思考にその質問の意味はすぐには測りかねた。素直に答える。

「え?…あ、クリーニングに出してから返すつもりだけど」

「よし。じゃあ持って帰ろう」

「あ、クリーニング屋さん、すぐそこの角に…」

ティファは言葉を詰まらせた。

持って帰るって…。

「クリーニングに出すのは明日だ。…今晩目安に使うからな」

呟く薄い唇がティファの反論の言葉を塞ぎこむ。


くらくらと辺りが回りだしたティファは抱きしめられた腕の中でクラウドの言葉を諦め気味に反芻した。

「目安…」

「…禁止区域徹底するから覚悟しろよ」



ああ、やっぱり怒ってる…。



明日は長袖の服を引っ張り出さなくてはいけないようだ。






FIN



20000HIT踏み倒してくださったDSさん、大変お待たせいたしました!
リクエストは「セクシードレスのティファ、クラウドはお仕事中」ということで。
いつもヒカエめなティファにたまには華やかな場所できらびやかな体験を…あら?してない?(自爆:一発目)
そんな魅力倍増な彼女の隣にいつも良い思いをしてばかりいるクラウドをそう易々と立たせてやるものかと…あら?すんなり…(自爆:二発目)
いや…結局良い思いするんですね!クラウドさん。。。ティファを確認する時に太腿を使うのは止めましょう(くす)
そして出てきたピアノ・バーの女主人…最後まで考えたのですが、やはり名無しさんです。
名前付けちゃうと愛着わいちゃうから…(考えるのが面倒だったわけでは)

お待たせした割りにこれです。いや、いつも通りですね;;

DSさん、20000HITフミフミありがとうございました〜vv


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